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歯周病は、歯の周囲の組織に炎症が起こり、歯を支えている構造が次第に失われてゆく病気で、我が国において40歳以上の成人が歯を失う第1の原因になっています。主な症状は、軽い場合には「歯ぐきからの出血」「歯ぐきが赤く腫れぼったい」等で、重くなると「歯がぐらぐらする」「歯ぐきを押すと膿のようなものが出る」等の症状が現れます。ほとんど痛みもなく、自覚症状がないままに進行している場合も多いので、注意する必要があります。
歯周病の直接の原因は細菌で、歯周病を起こす細菌は歯と歯ぐきのすき間付近に、「歯垢」という細菌の塊を形成しています。この「歯垢」は取り除きにくい「バイオフィルム」というフィルム状の塊を形成していて、薬剤が浸透しにくい構造をしています。この細菌の塊を破壊するためには、効果的な歯面清掃等でこれを除去することと、薬剤を併用することが有効です。
さらに歯周病が悪化する要因として、喫煙、偏食、暴飲暴食、運動不足、ストレス等の生活習慣があり、近年では「生活習慣病」であるといわれています。
(平成16年3月8日 毎日新聞掲載)

歯周病の直接の原因は前にもお話したように歯垢(細菌)ですが、同じように歯垢が歯の周りについていても、歯周病になりやすいかどうかは人によって異なります。歯周病になりやすい危険因子(リスクファクターと呼びます)はたくさんありますが、生活習慣も大きな因子です。中でも喫煙は最大の危険因子であることがわかってきました。たばこの有害物質により、白血球や抗体といった免疫を担う機能が低下して、口の中の細菌と闘う力が弱くなり、歯周病が重症化することが多いといわれています。喫煙者では歯周病によって歯が失われる危険性が、非喫煙者の4倍も高いという報告もあります。(喫煙は口臭の原因になりますし、直接歯周病とは関係がありませんが、歯ぐきの着色の原因にもなります)
また過度の飲酒は歯周病の悪化と関係があるといわれており、ストレスや疲労も体の抵抗力、免疫力を低下させることから、歯周病の危険因子となります。
ですから、歯周病の治療や予防には、口の中の原因(歯垢)を取り除くことと、体の抵抗力を減少させるような生活習慣を改善することの両方が大切です。
(平成16年5月8日 毎日新聞掲載)

内科などで投与される薬剤が、歯の周りの組織に影響を与えることがあります。
古くから知られているのは、抗てんかん薬のフェニトインによる歯肉増殖症で、これはフェニトインの副作用で歯肉が膨れる症状が現れ、服用者の約50%と高頻度で認められます。
もっと広く用いられている薬としては、高血圧症の患者さんによく用いられているカルシウム拮抗剤でも、服用者の数十%の方に歯肉の増殖(過形成といいます)が認められます。薬剤の副作用で歯肉が膨れると、口腔清掃が難しくなり、また歯と歯茎の間の溝(ポケットと呼ばれます)の中で歯周病に関連した細菌が増え、二次的に炎症が起こってさらに歯肉が膨れてしまうことがあります。このような場合には、できるだけ早期に口腔清掃を徹底して、定期的に歯科医院でのケアを受けると、増殖傾向は軽減されます。
(平成16年11月8日 毎日新聞掲載)

 

歯周病で歯石を取ると歯肉の炎症がおさまり、歯肉が引き締まってきますので、歯と歯の間(歯間空隙)が広くなったように見えることがあります。タイルの目地を埋めるように付着していた歯石を除去するので、歯間空隙が広くなるからです。特に下の前歯がスースーすると感じられることがあるかもしれません。また、歯肉の炎症がおさまると、それまで腫れて歯肉に覆われていた歯根の表面の一部が外に出てきます。それにより、温冷刺激に対して敏感になる知覚過敏症状が一時的に起こることもあります。
「歯と歯の間がすくから」「冷たいものがしみるから」と思って歯石除去を怠ると、やがて炎症は歯肉から歯槽骨にまで達し、歯を支える土台(歯槽骨)が弱くなり、歯を失うことになりかねません。
歯周病はあまり気がつかないうちに進行するので「サイレントディジーズ」(静かなる病)と呼ばれ、最初は痛みなどの自覚症状がほとんどありません。自覚症状がなかったのに、歯周病といわれて歯石を取ったところ、「歯がすいた」「しみる」といった症状が感じられるのも無理からぬことかもしれません。しかし、歯石は歯周病の原因であるデンタルプラークを付着させる絶好の場所となりますので、歯石の除去は歯周病治療を進めるうえで欠かすことのできない処置であることを理解していただき、定期的な健診を受けられることをお勧めします。なお、知覚過敏症状は、適切なブラッシングとフッ素塗布などで改善できます。
(平成17年5月8日 毎日新聞掲載)

03年に策定された健康増進法は、病気にかかりにくい健康なからだを作ることを目標としています。また病気にかかっても、軽いうちに治療やリハビリを行い、一刻も早く機能回復して、病気や障害を重度化させないための努力も重視されています。近年歯科治療の現場でも「一生むし歯になりにくい」「歯周病(生活習慣病)になりにくい生活習慣を早いうちから身につけ、歯周病にかからないようにする」という取り組みが進められてきています。
むし歯や歯周病にかからないためにはどうすればいいのでしょう。小さいころから一人一人が、健康的な生活を送る努力をすることと、定期的に歯科の健康診査、保健指導を受けることで、一生むし歯にも歯周病にもかかりにくい人生を手にすることができるでしょう。しかし、むし歯や歯周病は早期発見・早期治療を行ったからといって、その後のメインテナンスを怠れば、再発しやすい病気なのです。
「3カ月後にはまたお越しくださいね」という歯科医は、メインテナンスの大切さを痛感しているから定期的な健診をお願いするのですが、メインテナンスに応じていただける患者さんは、まだまだ少ないのが現状です。かかりつけ歯科医は痛くなってから行くところではなく、むし歯や歯周病を早期発見したり、あるいは治療の成果を長持ちさせるために行くところであるとご理解ください。
(平成17年11月8日 毎日新聞掲載)

歯科医院で歯の治療中に「むし歯が深いので神経を取ります」と言われたことがありますか。
その場で患者さんは「はい」と言っていますが、心の中では「痛くないかな、神経を取ると歯は弱くなると誰かが言ってたな」と思っている人も多いことでしょう。
歯の表面は石灰化組織であるエナメル質、その内側にはエナメル質を支持し破折を防ぐ象牙質という層、そしてその内側に神経が通っている歯髄があります。むし歯の細菌が歯髄の近くまで達すると、歯髄は細菌に侵され炎症を起こし(歯髄炎)、さらに進むと歯髄壊死(機能を停止し死んだ状態)になり、時にはあごの骨まで影響を与えます。このような状態になる前に人為的に神経を取り除き、代わりに薬を入れて、ふさいで処置しておくと、その後、長年にわたり、その歯で十分に噛むことができます。科学的には神経を取った歯は水分が減るが、そのことが強度の低下にはあまり影響しないと言われています。もちろん神経を取った後は放置せず、適切な形でかぶせることが重要です。
(平成15年5月8日 毎日新聞掲載)

歯の表面に冷気や冷水、あるいは歯ブラシなどの刺激が加わった時に「ヒヤッ」と感じるような、瞬間性の疼痛が生じることがあります。これはほとんどの場合、象牙質知覚過敏症と考えられる症状です。
健全な歯の表面は硬いエナメル質で覆われていて、刺激を防いでくれますので、このような症状は起こりませんが、いろいろな原因により象牙質が歯の表面に露出することがあります。たとえば、硬い歯ブラシで長期間横磨きをするような、不適当なブラッシングを行うと部分的にエナメル質が失われ、象牙質が露出します。また、歯周病で歯肉が少しやせる(退縮する)と歯の根がみえて、象牙質が露出します。象牙質も硬い組織ですが、細い管(象牙細管と呼びます)が集まったような構造をもっており、外からの刺激がこの管を通じて歯の内部の神経に伝わると考えられています。
(略図参照)
100人の方を調べると、そのうち20人くらいの人で象牙質知覚過敏が認められるといわれており、かなり多くの方がこの症状を経験されていることになります。象牙質知覚過敏での痛みは一過性(瞬間的)であるのが特徴です。
(平成17年3月8日 毎日新聞掲載)

前回は、象牙質知覚過敏は象牙質の中の細い管(象牙細管)を通じて、刺激が歯の内部に伝わって起こることを説明しました。ですから知覚過敏の治療はこの経路をストップさせることを目的にしており、一般的には次のような方法があります。
フッ素や塩化ストロンチウムなどは象牙細管の封鎖性を高めるので、これらの薬剤(他の薬剤もあります)を配合した歯磨剤を用いることは象牙質知覚過敏に有効であるとされています。しかし、これらの薬剤の効果はゆるいものなので、効き目が現れるまでには何週間もかかるケースが多いようです。
コーティング剤の使用。これは露出象牙質の表面をコーティングして外からの刺激を遮断する方法で、歯科用の特殊な樹脂を使う方法がよく用いられています。
歯の根元付近で三角形に歯の一部が欠けている場合(楔状欠損と呼びます)などでは、その部分に接着力のある歯科用の材料をつめて外部からの刺激を遮断します。
他には歯科用レーザーや高周波を用いる方法もあります。いずれの場合でも、歯の表面が歯垢(細菌の塊)で覆われていると、治療の効果が上がりませんので口腔清掃は重要です。
(平成17年4月8日 毎日新聞掲載)

歯は口の中に見えている部分(歯冠部)と根の部分(歯根部)に分けられており、表面の構造も異なります。正常であれば歯根は顎の骨の中か歯ぐきに覆われており、表面が露出することはありませんが、加齢や歯周病により歯茎がやせる(退縮)と、歯根の表面が露出することになります。この歯根の表面には歯を守るエナメル質が元々ないので、この部分に歯垢が蓄積するとう蝕になりやすいと考えられています。
近年、歯根面のう蝕が問題になってきたのは、高齢の方が持っている歯の本数が増えていることと関係します。これは口腔衛生状態の改善により歯がより長く保たれ、また歯科治療の進歩により、従来は抜かなければならなかったような歯も保存することが出来るようになったことによります。しかし、一方では歯根が露出した歯が増えていることにもなり、歯根面のう蝕は増加の傾向にあります。また、高齢の方でだ液の分泌量が減少すると、歯を溶かす酸を洗い除く作用が衰えるので、急激に歯根面のう蝕が増加してしまいます。
歯根のう蝕の治療は他の部位の治療とおおよそ同じですが、いったんこの部位がう蝕になるとエナメル質がないために進行が早い場合も多く、歯周病の治療が終わっても歯がだめになる場合もあります。
(平成17年8月6日 毎日新聞掲載)

歯茎に近い部分の歯の表面が三角に欠けたようになる状態を、その形状から「歯の楔状欠損」と呼びます。このように歯が欠けたようになる原因の一つは、過度のブラッシング圧が長期に歯の表面に加わることにより、歯の表面がすり減ることがあります。
もう一つは歯にかみ合わせの力が異常にはたらき、歯茎に近い部位のエナメル質の構造が破壊されて欠けたようになる現象で、専門的には「アブフラクション」と呼ばれています。両方の原因が重なる場合もありますし、楔状欠損を生じたあとの部分にむし歯が発生する場合もあります。
楔状欠損に最も多く見られる症状は「歯がしみる」という知覚過敏です。これは歯の表面のエナメル質が失われたことにより、象牙質が露出し、象牙質の管状の構造(象牙細管)を通して、外からの刺激が歯髄に伝わることによります。このような場合には治療が必要ですが、近年、歯科では歯に強力に接着する生体材料が開発されており、ほとんど歯を削らずに欠けている部分を埋めて、外からの刺激を遮断することができるようになっています。
(平成17年12月8日 毎日新聞掲載)

生えたての永久歯は、歯質などが未成熟であるために「幼若永久歯」といわれ、むし歯になりやすいので注意が必要です。乳歯に替わって出てきた永久歯は、見た目には立派に見えますが、生えたばかりの永久歯の表面は顕微鏡で拡大して見ると、大きな穴がたくさんあいています。そのため、汚れがつきやすく、酸に対する抵抗力も弱いためむし歯になりやすいのです。少しずつだ液中のリンやカルシウムが沈着して、表面の穴は埋まっていきますが、表面に硬いエナメル質の結晶構造を持った「成熟した歯」になるまでには、5年くらいかかるといわれています。
言い換えれば、小学生の間に生えてきた永久歯が成熟するのは高校生くらいになってからということになり、この間に永久歯のむし歯が多く発生してしまいます。高校卒業くらいまでむし歯にかからないようにすれば、その後のむし歯はずっと発生しにくくなりますから、この時期の歯の健康管理はたいへん重要です。幼若永久歯のむし歯予防には、フッ素配合ハミガキやフッ素塗布などのフッ化物応用が特に効果的です。フッ化物応用や正しいブラッシング、定期健診で幼若永久歯をむし歯から守りましょう。
(平成18年8月8日 毎日新聞掲載)

外力によるけがでなくても歯が破折してしまうことがあります。梅干しの種のような硬いものを噛み割ったりした場合や睡眠時に噛みしめや歯ぎしりをする方の場合は、歯が欠けたり割れたりしてしまうことがあります。若い方ではまれですが、加齢とともに歯は割れやすくなる傾向があるため、あちこちの歯が咬合力によって破折してしまう方もいます。歯の神経を取って冠をかぶせてある歯の場合でも、歯根が割れて腫れたり、グラグラになったりすることがあります。歯の破折は、一部が欠けてギザギザするだけでほとんど症状が出ないものから、歯が大きく真っ二つに割れて噛むことができなくなる場合まで、程度や症状はさまざまです。
処置としてはギザギザになった部分を研磨してそのままで使える場合もあり、樹脂や金属で補修したり、神経を取ってかぶせを入れることもありますし、歯を抜いてしまわなければならないこともあります。
まったくむし歯のない歯に、ある日突然強い痛みが起こったときは、咬合力による歯の破折の可能性があります。
(平成18年12月8日 毎日新聞掲載)

歯科の2大疾患であるむし歯も歯周病も、ともにデンタルプラーク(歯垢)が原因で起こる感染症で、最近ではTVコマーシャルでも「プラークコントロール」「歯の再石灰化」「歯周病原菌」などの専門用語が飛び交い、市民の歯の病気に対する関心が高まってきています。むし歯予防が行き届いてきて、学校歯科健診でもたしかに子供のむし歯は減少しています。
また、むし歯ができるメカニズムも分かってきました。初期の段階では、歯の表面からカルシウム分が溶け出しますが(脱灰)、適切なブラッシングでプラークを取り除き、新鮮なエナメル質表面を露出させれば、再びだ液中のカルシウム分が沈着してきて(再石灰化)、歯は元に戻ります。ひところ前は、ごく初期のむし歯でも削ってつめたものですが、今はまずブラッシングやフッ素を利用して再石灰化を期待するという方向に変わりました。
一方で歯周病は、成人が歯を失う最大の原因と言われており、一気にたくさんの歯が巻き込まれる困った病気ですが、近年の治療技術の進歩と発展で、以前なら抜歯適応の歯も残せる可能性が出てきています。
むし歯と歯周病は、病気の原因となる細菌も、病気の経過も全く違う病気です。ですからむし歯が一本もなくても歯周病になりますし、逆もあります。また困ったことにむし歯と歯周病を併発する場合もあります。
(平成19年2月8日 毎日新聞掲載)

折れたり、抜けたりした歯を、元通りにつけて直すことができるということをご存じでしょうか。今、歯科の世界では接着の技術が大変な進歩を遂げ、折れた歯のかけらを元のところにつけることができますし、歯のかけらが見つからなかったときでも、歯科用の合成樹脂で作って、元の状態とほぼ同じように治すことができるようになりました。
また、歯根膜(歯の根を取り囲む軟組織)や歯髄組織(歯の神経)に関する研究が進み、抜け落ちた歯でも、元通りに植え直す方法が確立してきました。
子どもたちの歯牙外傷は、人や物とぶつかって起こるので、上の前歯が犠牲になりやすいのです。不幸にして子どもたちがそんな事故に見舞われた時、その場に居合わせた大人がどういう処置を取るかで、その後の経過は大きく左右されます。
まず大切なことは、(1)歯のかけらや抜けた歯を探し、(2)乾燥させずに牛乳(もっとも手近にある浸透圧が体液に近い液体)などに漬けてすぐにかかりつけの歯科医の診察を受けることです。歯が乾燥してしまっては、治療成績が格段に落ちてしまいますし、症例によっては不可能なこともあります。
特に抜けてしまった歯の場合、乾燥を防いで的確な対応をしていれば、受傷後1時間たっていても、再植することが可能なことがあります。
(平成16年7月8日 毎日新聞掲載)

◇欠けたり折れたりした歯の処置
歯の外傷でもっとも多いのが歯牙の破折です。歯の先端がほんの少しだけ欠けたようなものから、歯ぐきのところで折れてしまうものまで破折の状況はいろいろです。軽度な場合は、欠けて鋭くなった部分を研磨したり、レジン(合成樹脂)などで修復をします。
大きく欠けた場合、歯髄が巻き込まれていることがありますので、欠けた歯をつけただけで済ますわけにはいきません。やむをえず神経を取り、かぶせなければならないこともありますが、特に子どもの場合など、もともと健全な歯である場合が多いので、歯髄組織の細菌感染は軽微であると考えられ、できるだけ歯髄を残すように試みるのが最近の外傷歯治療です。神経を守る薬を塗布して、多くの場合欠けた歯を戻したり、歯と同じ色の合成樹脂を詰めて修復することになります。
大人になってから歯を打った場合、数日で痛みがなくなったので何年もそのまま放置していたら、だんだん歯の色が黒ずんできたというケースがあります。これは打った時の衝撃で歯髄が死んでしまい、それが原因で内部から変色してくるためで、神経の治療を行った後、歯牙漂白法という治療で、ある程度元と同じような色に戻すことができますし、無理な場合は、レジンや陶材をかぶせることもあります。
(平成16年8月8日 毎日新聞掲載)

歯の外傷で欠けたり折れたりする次に多いのは、打った拍子に歯がぐらぐら揺れて抜けかけているケースや、歯の生えている方向が曲がったり、めり込んだりしているケースです。
外からは見えなくても歯槽骨の中で歯根が折れている場合や、歯槽骨が骨折していることもあり、そのような場合には、やむなく抜歯するか、歯を元あった位置に戻して、隣の歯と固定することになります。
固定期間は、症状や年齢によって異なり、年齢が若いほど短い期間でいいようです。だいたい手や足を骨折したときの固定期間が目安になります(小学生で2〜4週間)。
外傷歯の状態や外傷の程度、受傷後の経過時間などで、歯髄組織(歯の神経といわれている部分)が死んでしまう場合もありますが、神経を取って根っこの治療をすることになります。
バットが当たったり、交通事故などのとき、痛みで口が閉じにくかったり、歯がきっちりと噛み合わなかったり、顔貌の左右対称性が失われていたりすると、顎骨の骨折が疑われます。顎骨の骨折を伴っているときは、時間がたつほど治療が困難になるため、全身の救急救命処置が終了した後、早い時期に顎骨の固定などの歯科治療を受けられるとよいでしょう。
(平成16年9月8日 毎日新聞掲載)

口の中やその周りのけがを「口腔外傷」といいます。転んで顔面を打撲し、受傷する小児の「口腔外傷」が多いようです。1歳から2歳にかけて多く見られ、十分に運動機能が発達していないことや顔面防御の反射運動がとれないことが原因と考えられます。
転倒による場合、唇を切ったり舌をかんで傷つけることが多く、特に上唇の裏にある粘膜のヒダ(上唇小帯)の裂傷は、よくみられます。このような軟組織のけがは、縫合しないと止血しないこともあります。また、前歯が欠けたり、折れたり、抜けたりすることもありますが、見た目には問題がないようでも、歯の根が折れていたり、歯の周りの骨に骨折があることもあります。
歯ブラシや笛などをくわえて転倒することによって、上あごをついたり、電気コードをかんで起こる電撃症(電気によるやけど)も小児に特有のけがです。
口の中には比較的太い血管があり、周囲には気管、小脳、頚動脈など傷つけると命にかかわる重要な器官があります。物をくわえたまま走り回らせるのは、大変危険です。
乳歯の外傷は、あとから生えてくる永久歯や歯並びに影響を与えることもあります。
(平成18年5月8日 毎日新聞掲載)

人間の歯の数は「親知らず」を除けば28本です。なぜ「親知らず」を除くかといえば、最近の人たちはあごが小さくなってきており、生えなかったり、斜めに生えて抜かなければ炎症を起こすからです。これについては別の機会にお話をしましょう。
今日のテーマは28本の中でむし歯や歯周病で歯を抜いた後、どうすれば良いかの話です。28本が27本になったって大した事じゃないよ。サッカー選手もレッドカードが出たら10人で攻守しているよ、と言う人がいるかもしれません。
歯に関しては「ノー」です。抜けた隣の歯が傾斜して、それが前の歯までゆるむ原因になります。また、対合歯(下の歯がなくなればその部の上の歯)が伸びてきます。こうして数年すれば、口の中が1本分の放置のために全体に隙があき、噛み合わせが悪くなり、むし歯や歯周病の大きな原因となります。さらに進むと、最近よく問題になっている顎関節症の要因になるともいわれています。この様な理由から、抜けた場所は補う必要があります。
(平成15年2月8日 毎日新聞掲載)

歯科治療をしていると、患者さんの言葉が実に多様で、歯科医師が驚くことがあります。「白い歯を入れて下さい」と希望されたので、元の天然の色に近いものを考えていると、「先生、白というのは白金色、銀のような色ですよ」と言われ、「そうか、やはり模型や本を使って説明しないといけないな」と反省しました。将来、コンピューターグラフィックスを使って、患者さんが自分の口の中の完成状態を見られるようになるでしょう。
さて、義歯と言えば、すべて人工の歯を指すように思われますが、歯科では慣例で、取り外しのできるものを義歯、正確には有床義歯と呼びます。歯が残っている場合には、一般的に義歯を金具で歯に止めて使用します(部分床義歯)。全ての歯がない場合でも義歯は装着できます(総義歯)。失ってしまった歯を両側の歯(片側の場合もある)を土台にしてはずれないように取りつける方法を、ブリッジと呼びます。まさに橋の構造ですが、土台になる歯の強さが必要となります。
歯科医学は痛みや腫れを治した後、元の機能を回復するという重要な役割があります。
(平成15年7月8日 毎日新聞掲載)

昔から美人を言い表すために、明眸皓歯ということばが使われてきました。きれいな口元は美人の条件の一つです。口元がきれいでない、つまり歯並びが悪い(「不正咬合」といいます)と、どのような不都合が生じるのでしょうか。大きく分けると審美的なものと機能的なものとに分けられます。
不正咬合であると、人前で大きな口を開けて笑いにくい、口元を人から見られるのが気になったり、物をうまく噛みにくい、発音しにくい、歯を磨きにくい、などといったことがあります。それでは、不正咬合とはどのような状態をいうのでしょうか。
審美的に問題となりやすい不正咬合には、次のようなものがあります。
「反っ歯」といわれるもので、上顎の前歯が下顎より前に突き出した状態(上顎前突)▽「受け口」といわれるもので、下顎の前歯が前顎の前歯より前に出ている状態(反対咬合)▽「八重歯」や「乱杭歯」といわれるもので、歯並びがデコボコの状態(叢生)▽上顎および下顎の両方の中切歯の間が開いている状態(正中離開)。
機能的に問題となりやすい不正咬合には、次のようなものがあります。
奥歯を噛み合わせても前歯が噛み合わず口が開いたままの状態(開咬)▽上顎の歯が下顎の前歯のほとんどに覆い被さっている状態(過蓋咬合)▽上顎と下顎の噛み合わせが左右にずれている状態(交叉咬合)。
歯並びが悪い方は、いくつかの不正咬合の要素を併せ持っている場合が多く、その程度もさまざまです。
(平成18年1月8日 毎日新聞掲載)

「矯正治療って痛いのでしょう?」
結論から言うと、日常生活に大きな支障はないといえます。もちろん、痛みについては、個人差が大きいのは事実です。それでは、矯正治療に伴う痛みにはどのようなものがあるのでしょう。直接伴う痛みとしては、(1)奥歯の間に装置を入れるすき間を作るために起こる痛み(2)ワイヤ等を装着して歯が動き始めたときに起こる痛み(3)装置を装着した時に舌やほおの内側が装置に慣れるまでに起こる違和感などが挙げられます。
ただこれらの痛みは、数日間で治まります。ほとんどの人には必要ありませんが、痛み止めの薬を用いることもできます。最近では、ワイヤの素材も進化しており、歯にかかる力が、よりマイルドに持続的に作用するように工夫されてきているため、痛みは以前より軽減され、歯の移動はスムーズに行えるようになってきています。その結果、治療期間も短縮される傾向にあります。最後に装置をはずす時の痛みもありますが、これはその場限りのものです。痛みに対して敏感な方の場合も治療の進め方を工夫することで矯正治療ができるようになってきています。
(平成18年10月8日 毎日新聞掲載)

今回から誤嚥性肺炎について、お話しします。
誤嚥とは、食べ物や水分が、食道ではなく誤って気道の方に入ることをいいます。ものを飲みこむ一連の運動(嚥下と呼びます)は脳の中枢でコントロールされており、健康な人では、特に意識しなくても自然に飲み込むことができ、誤って気道内にものが入った時には、せき込むことによって誤嚥を防ぎます。
加齢によっても嚥下反射は低下しますが、脳血管障害(脳梗塞、脳内出血など)の後遺症により嚥下反射、せき反射の低下、舌運動機能の低下が生じることが多くなります。そのような方では、本人の自覚がなく、たとえば睡眠中などに、むせたりせき込んだりしないままに誤嚥してしまう不顕性誤嚥が多くみられます。
誤嚥により引き起こされる肺炎を誤嚥性肺炎といいます。これまでは、がんや心疾患などほどは注目されていませんでしたが、知らず知らずのうちに高齢者の健康をむしばみ、生命まで脅かすことが分かってきました。そして、誤嚥性肺炎の発症は口の中の状態とも関連しているのです。
(平成16年12月8日 毎日新聞掲載)

厚生労働省の統計によると、肺炎は日本人の死因の第4位で、肺炎で死亡する人の90%以上が65歳以上の高齢者です。前回、高齢の方では嚥下反射が低下、そのことによって誤嚥性の肺炎が引き起こされることが多いとお話ししました。老人性肺炎の原因菌はおもに口の中の細菌で、病原性細菌を肺に誤嚥すると、気づかないうちに発熱して、肺炎を発症することも多いのです。
ですから、誤嚥性肺炎を防ぐためには、口腔内を清潔に保つことが重要になります。特に就寝前には十分な口腔内清掃を行い、できれば喉のうがいをし、また舌の清掃にも気をつけることが大切です。
歯がある場合はもちろん歯の清掃が中心になりますが、歯がなくても義歯を清潔に保っておかねばなりません。
高齢者を対象に専門的な口腔清掃を、一定期間繰り返し行ったところ、発熱者も肺炎を発症する人も、明らかに減少したという報告もあります。
(平成17年1月8日 毎日新聞掲載)

近年、脳血管障害、パーキンソン病などの神経疾患、骨折などが原因でリハビリテーション医療を受けておられる高齢の方が急激に増えています。歯科の治療は身体機能の回復を目的とするリハビリテーションとは一見あまり関係がないように思われていますが、最近次のようなことがわかってきました。
老人施設や在宅において、高齢で障害をおもちの方を対象とした広範な研究により、歯科的な問題がある方が歯科の治療を受けると、咀嚼能率(噛む機能)や食事摂取法といった口腔に関係のある機能だけでなく、季節や時間についての認識、自力での移動能力、さらにコミュニケーション能力などが改善されることがわかってきました。これは歯科の治療により直接口腔機能が改善され、食事機能が向上し、栄養状態が改善され、精神活動や身体的活動性をも改善させたという流れであると考えられます。もちろんすべての方に劇的な変化が現れるわけではありませんが、歯科の治療が日常生活の活動性(ADL)や生活の質(QOL)を改善することに有効である可能性が高いのです。
障害をおもちの高齢者の方を対象とした総合的なリハビリテーション医療の中に、歯科治療が位置付けられるべき時代になってきていると考えられるのです。
(平成17年7月8日 毎日新聞掲載)

厚生労働省の調査によると、歯や口の中に「悩みや気になることがある」人は、国民の7割にのぼり、25歳以上の国民の8割は歯周病の有病者です。成人の大多数が口の中に問題を持っていながら、ほとんど治療を受けておられません。
とかく、歯科治療には、痛い、費用がかかる、待ち時間が長いなどのイメージがつきまといますが、最近の歯科事情はというと、痛みは歯科医学と技術の進歩でかなり軽減されてきています。治療時の痛みの大半は麻酔注射の痛みですが、注射針の改良や表面麻酔の発達により、ずいぶん和らいでいます。また、歯を削る時の嫌な音もかなりやわらかくなりました。
費用については、公的保険でほとんどの治療は受けることができます。特別なかぶせものや入れ歯などを希望されると、保険外の費用が必要ですので、主治医と十分話し合ってください。
最近、インフォームド・コンセントという言葉をよく聞かれると思いますが、治療を受ける際に説明を受け、納得してから進めることです。疑問がある時は遠慮せずに聞くことが大切です。
待ち時間については、最近は予約制を取っている歯科医院が増え、かなり解消されてきています。歯科治療には時間もかかる場合がありますので、予約制度は必要なものだと思います。まずは、一生おつきあいのできる「かかりつけ歯科医」を持ちましょう。
(平成15年1月8日 毎日新聞掲載)

毎年この時期を迎えると、「むし歯予防デー」のことを書かないわけにはいきません。1928(昭和3)年に、6月4日の語呂合わせで定められてから、実に75年の歴史をもつ由緒ある記念日です。それほど以前から、歯科はいち早く予防と健康づくりに取り組んできました。大きな歯ブラシを使った小学校での歯磨き体操も、当時から行われてきました。現在では、6月4日から10日までを歯の衛生週間として、幅広く府民への公衆衛生活動が繰り広げられています。
歯の健康という点から考えると、痛みや腫れがあって歯科医院へ通うことは当然のことですが、自覚症状がない時にも、年に数回検診を受けたり、普段歯磨きしにくいところを専門的に清掃してもらうこと(家庭でも大掃除で普段できない所をきれいにするのと同じように)、また、むし歯に詰めたり、かぶせたものが、すり減ったりして合わなくなっている時は、痛みがなくても放置しないでかかりつけ歯科医にみてもらうことが、自分の歯の健康を守る上で大切なことです。
(平成15年6月8日 毎日新聞掲載)

今日、11月8日は「いい歯の日」ですが、6月4日の「むし歯予防デー」ほど知られてはいません。これからどんどんPRするためにも、今日配達された新聞には特集号として「歯の新聞」を折り込んでいます。ぜひ、お読み下さい。
おかげで、このごろ歯科医師会にも、さまざまな団体から「歯と健康」について講演するようにとの依頼をいただくようになりました。特に、老人クラブ連合会からは「噛むことで生活習慣病や痴呆の予防」についての講演の要請が多くなりました。高齢の方々が、なんとか寝たきりにならないように、家族に迷惑をかけないようにと、自分の将来について必死で考えておられることに胸が熱くなります。
国民みんなが命を全うするその日まで、元気に生活をしていたいと願っています。自分の歯で噛みしめることは、そのことに大きくかかわっています。一つの食物を口に入れて何十回も噛むことにより、唾液が十分に出て消化を助け、また、老人に多い口腔乾燥症を防ぎます。最近は唾液中の酵素が、食物中の発がん性物質を減らすともいわれています。
注射点滴によって栄養補給することもできますが、自分の歯で物を噛みつぶして摂取することが、いかに大切なことかを11月8日(いい歯の日)にちなんで今一度考えていただければ、歯科医療関係者の喜びとするところです。
(平成15年11月8日 毎日新聞掲載)

今年の始まりは、むし歯や歯周病に大きくかかわる歯垢(プラーク)について、お話ししましょう。
歯科医師や歯科衛生士が、必死になって患者さんにブラッシング指導をするのは、この歯垢を取ってもらうためです。人間の歯は、清掃した後、数時間たつと「ペリクル」と呼ばれる膜に覆われます。唾液の成分からなるこの膜は、酸から歯を守る役目をする一方で、細菌が歯の表面に付きやすくなるという面を持っています。
いろいろな菌が積もって歯垢になっていくことを「歯垢形成」といいますが、この状態までは、しっかりブラッシングを行うことよって除去できます。歯垢が石灰化して歯石になってしまうと普通のブラッシングでは取れず、歯科医院で取ってもらう以外に方法はありません。
最近、テレビなどで「プラークコントロール」という言葉を聞かれたことがあると思いますが、これは、いかに継続的に口腔内を清潔に保つか、歯垢の発生を抑えるかを考えることです。歯ブラシでの清掃はもちろん、洗口や食事も大切です。繊維性食物を取ることや糖性食物を控えることが重要です。また、合わなくなった詰め物や冠(歯にかぶせてあるもの)の場所には特に歯垢がたまりやすいです。
(平成16年1月8日 毎日新聞掲載)

1月に説明した歯垢(プラーク)が石灰化し、ブラッシングでは容易に除去できなくなった沈着物を歯石と呼びます。歯石はリン酸カルシウムを主成分としていますが、その中にたくさんの菌体を有し、そのため歯周組織に炎症を起こし、歯根膜(歯の根とまわりの骨を結び付けている繊維状の組織)を破壊し、周りの骨を痩せさせます。その結果、冷たいものがしみたり、歯が動き出して、ひどい場合は歯が抜けてしまいます。
それを防ぐために行うのが、歯石除去です。スケーリングともいわれるこの処置は、歯周病の治療上、非常に大切なもので、歯科医師や歯科衛生士が手用の器具や電動の器具を使い行います。もちろん、どのあたりまで歯石がついているかをレントゲンや歯周の検査を行った結果、処置が進められます。
しかし、多くの患者さんが歯石を取ることに不安を持たれているのも事実です。特に手用の器具を使うとき、大きな力がかかっているように感じ、歯が動いてしまうのではと心配されます。実際には食事で噛む時の力よりずっと小さなものです。また、壁のように何本にもわたり歯石がついている場合、それを除去したあと歯が動くといわれることもあります。それでも歯石を除去し、そのあとに歯の動きを止める装置を入れることにより、自分の歯を抜かずに保つことができます。
(平成16年2月8日 毎日新聞掲載)

あるファミリーレストランで、隣の席の家族連れの会話が聞こえてきました。「○○ちゃん、しっかり噛んで食べなさいよ」。なぜだろう?
とても新鮮に聞こえた。よく考えてみると、最近あまり耳にしなくなった言葉だからです。「早く食べなさい」「グズグズしてると遅くなるよ」なんて言葉が当たり前のように飛び交う現代。昔は、「30回噛んで食べなさい」としつけられたものです。時間に追われて忙しい現代人は「噛む」ということの重要さを忘れてしまっているのです。「噛む」ことはいろんな病気の予防につながります。例えば、噛むという機械的な力(ストレス)がそれぞれの歯に加えられ、歯と歯を支える歯槽骨が鍛えられます。歯と歯槽骨はコラーゲン繊維でつながっていて噛むことによって骨や繊維の中に入っている細胞が伸びたり縮んだりします。すると、これらの細胞の中に、多くの栄養が摂取され、代謝がきわめて盛んになることが分かっています。これは、歯周病予防につながります。  また、だ液にはカルシウムやリンといった歯を作っているイオンも含まれており、よく噛むことはだ液の分泌を促しますので、むし歯予防につながります。他にも、よく噛むことが満腹中枢を刺激して食べ過ぎをなくし肥満を予防したり、噛むことが脳を刺激してぼけを防止することも知られています。「歯は健康の元」という言い伝えがありますが、最近では学問的に証明されつつありま???????す。このような、「噛むこと」に欠かせない大切な歯をいつまでも残しておくために毎日のお手入れを欠かさないように、また、定期的に歯科健診を受けることをお勧めします。
(平成18年11月8日 毎日新聞掲載)

“8020”は「ハチ・マル・ニイ・マル」と読み、「8020運動」とは「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動のことです。平成元年、厚生省(現・厚生労働省)と日本歯科医師会が提唱し、自治体、各種団体、企業、そして広く国民に呼びかけてきました。
87年には80歳で20本以上歯を有する人の割合は約7%でしたが、05年の調査では初めて20%を上回りました。また、80歳時の平均の歯の数も、87年の約5本から05年は約10本になりました。歯科保健の向上によって、国民の口腔の健康状態はこのように着実に向上しています。しかし、世界トップクラスの長寿国である日本でも、国際的には高齢者の歯の数ではまだまだトップクラスとはいえません。
歯の健康は、そしゃくのほか食事や会話を楽しむなど生活の質(QOL)に大きくかかわる重要な事柄です。“8020”を達成されているのは現在4〜5人に1人ですが、すでに20本の歯がない方でも残っている歯を手入れし、歯がなくなった部分は義歯等により機能回復して、口腔の機能を維持増進することは大切です。
なお、8020推進財団のホームページで詳しいデータが公開されています。一度のぞいてみられてはいかがでしょう。
(平成19年1月8日 毎日新聞掲載)

妊娠すると、おなかの赤ちゃんに栄養を取られて、お母さんの歯がボロボロになるという話を聞きますが、これは間違いです。赤ちゃんの歯や骨を形成するカルシウムは、お母さんの歯から使われるものではありません。
妊娠中にお母さんの歯が悪くなるのは、つわりなどで口の中の清掃が出来にくくなることが原因です。それと、妊娠によってホルモンのバランスが崩れるため、歯肉が炎症を起こすことが多く、よけいにブラッシングすることがおっくうになります。しかし、一定期間がたつとそれも収まりますので、できる限りお口の清掃に努めましょう。
そして、何よりも大切なことは正しい食生活を保って、胎児に栄養が十分に行きわたるようにすることです。妊娠中のカルシウムの必要摂取量は1日当り1000〜1200ミリグラムと考えられています。また、カルシウムが吸収されるためにはビタミンA、C、Dなどが必要ですし、たんぱく質や鉄分ももちろん重要です。食品としては、牛乳、海藻、小魚などでカルシウムが摂取できます。
妊娠中の歯科治療については、妊娠4カ月から8カ月ぐらいは安定期ですから、ほとんどの治療を受けることが出来ます。
(平成15年9月8日 毎日新聞掲載)

赤ちゃんが生まれて、初めての歯が生えるのが生後半年ごろ。それまで、歯科医が関係することは無いと思われがちですが、口の専門家として言えば、哺乳瓶ではなく、母乳を与えてほしいのです。
栄養面は別の紙面に譲って、あごの筋肉を発達させるうえで、できるならばお母さんのおっぱいを吸わせてあげて下さい。哺乳瓶での授乳は、下あごの上下運動が小さく、また、吸うのが容易なため唇や歯茎の力もあまり使わなくなります。その結果、この時期に発達しなければならない口腔器官の発育が劣ってしまう恐れがあります。
赤ちゃんは母乳を飲むとき、口に乳首を含んでただ吸うだけではなく、乳輪までくわえてかみつぶすように飲みます。口の中ではさらにしぼり出す複雑な動きもあります。このようにして、赤ちゃんの口腔器官や筋肉が強くなっていきます。
さて、生後半年ごろから下の前歯が生えてきます。乳歯は2歳半ごろに生えそろいますが、歯磨きを始めるのは上下の前歯が生えそろうころ、すなわち、1歳前後が良いとされます。慣れさせながら必ず親が助けてあげて下さい。3歳ごろには、1人でしっかりみがく習慣をつけさせましょう。後から大人の永久歯が出てくるから、乳歯は少しぐらいむし歯になってもなんて、考えているお母さんはいないと思いますが、乳歯のむし歯は生えかわりにも大きくかかわります。
(平成15年10月8日 毎日新聞掲載)

歯周病はもちろん歯の病気ですが、糖尿病や肺炎といった全身の病気とも関係が深いことがわかってきました。
糖尿病になると、細菌とたたかう役割を担う白血球の機能が低下することが知られています。このため口の中で歯周病を起こす細菌とたたかう力も低下して、歯周病が悪化することがしばしばあります。歯周病は「歯垢」とよばれる細菌の塊が原因ですので、糖尿病の方は、この歯垢がつかないように常に口の中を清掃しておくことが、歯周病の進行を防ぐために特に重要です。
また、歯周病の悪化が糖尿病に影響を及ぼすケースがあることもわかってきました。ですから、糖尿病の方は内科での治療とともに、歯科医院で歯周病のチェックをしてもらい、必要ならば治療を受けられることをお勧めします。
また、歯周病は一部の肺炎とも深い関係があります。お年寄りや手術後の患者さんなどは、物を飲み込む「嚥下」という機能が低下しているので、睡眠中などに唾液が気管に入ってしまうことがあります。この時、歯周病に関係した細菌が肺に入って、肺炎を起こすことがあるのです。これを「誤嚥性肺炎」といいます。
(平成16年4月8日 毎日新聞掲載)

歯科医院に行って、初診の時に「内科等のお医者さんに指示されて、何かお薬を飲んでいますか」と聞かれ、「歯の治療に来てどうして」と思われる方もあるでしょう。
心臓疾患や高血圧症や肝臓疾患などの治療薬は、長期間継続して服用する必要のある薬が多いために、歯の治療を受ける日にも服用されている場合は、薬の作用や副作用が歯の治療に影響することがあります。特に、血栓塞栓症の治療や予防のために服用する抗血栓薬(ワーファリンやバイアスピリン等)は血が止まりにくくなるので、抜歯等の出血を伴う治療の時には、服用を一定の期間止めていただく必要がある場合もあります。
逆に、高血圧症の治療薬は、服用を止めると歯の治療中に血圧が上がることもありますから、歯の治療を受ける時は忘れずに服用する必要があります。
また、これら以外の病気の治療で、鎮痛剤や抗生物質や消炎剤を服用されている場合も、歯の治療のために同様の薬を服用すると、重複する可能性がありますので、必ず知らせていただく必要があります。
このように、歯の治療を受ける場合も全身の疾患がいろいろな形で関係しますので、必ず服用している薬や治療している病気について、できるだけ詳しく、かかりつけの歯科医に告知して、ご相談してください。
(平成18年4月8日 毎日新聞掲載)

舌は歯と同様にいろいろな機能をもつ重要な器官です。舌は摂食、嚥下、味覚、発音に関連した機能を持ち、さらに食品の形状、硬さ、温度等を感知しています。舌の色調や機能に異常をきたす要因や疾患には、ビタミン摂取量の不足、熱性疾患やウイルス性疾患、過度の喫煙、神経性の疾患、貧血、消化器系の疾患、薬剤の副作用等があげられており、さまざまな全身状態が舌に反映されるともいわれていますが、個人差も大きいようです。
舌の上の面(「舌背」といいます)に苔のようなものが付着することがあり「舌苔」と呼ばれています。「舌苔」は代謝産物と考えられ、通常はとくに病的なものではありませんが、口臭や味覚障害の原因になることもあります。舌の清掃は普通の歯ブラシやガーゼを用いてもできますが、専用の舌ブラシがあり、ナイロン毛を採用したタイプのものが口臭予防に適しているようです。また、抗菌剤を含む洗口剤の併用も有効です。
(平成17年6月8日 毎日新聞掲載)

歯ぐきの骨が過剰に分厚くなってこぶのようなものができることがあります。これを「外骨症」といって、咬み合わせの力(咬合力)が強いひとや、くいしばりや歯ぎしりなどの習癖があるひとによく見られるようです。歯の咬合力はだいたい自分の体重に匹敵するといわれていますが、横揺れの力には比較的弱く、歯ぎしりなどで横揺れの力がかかると、歯が傾かないように、一種の防御反応として歯の周囲の骨(歯槽骨)が厚くなるのではないかと考えられています。
上顎では、臼歯部の外側(頬側)と上顎の真ん中(口蓋正中部)、下顎では、臼歯部の内側(舌側)によくおこりますし、その他の部位にできることもあります。組織学的には正常の骨組織と同じで、放置しても問題になることはありません。しかし、異常な咬合力がかかり続けると、上顎の真ん中にうずら卵大の隆起ができたり、熱いものを食べたり、飲んだりしたときに火傷しやすいという二次的な障害が起こることがあります。また、入れ歯を装着しなければならない場合には、歯槽骨の隆起部がじゃまになって、入れ歯の設計が難しくなることがあります。
(平成17年10月8日 毎日新聞掲載)

最近出版された本に「歯を削ったり抜いたりする歯科医には注意しよう」といった内容が掲載されました。現在、歯科治療を受けている人たちは、さぞや困惑されたことでしょう。これは、少し極端な例かもしれません。
医学的にも歯科医学的にも、悪い部分すなわち、がん細胞におかされた組織やむし歯に感染した歯質を取り除かなければならないのは今も昔も変わりません。ただ、最近は少しでも健康な部分を保存するように治療の技術が進歩してきています。
歯科について言えば、これまで予防拡大といって、感染部分の周辺部も含めて削っていましたが、まさに感染部分のみを除去する方法が進められています。
抜歯に関しても歯周治療の進歩により、以前は「歯を抜くしか治療方法がない」というケースが、今では「歯を抜かずに治療する」ことがかなり可能になりました。それでも、重度の歯周病では、抜歯をしないと隣接する歯まで歯周病菌におかされてしまう場合がありますから、かかりつけ歯科医に十分相談をして、治療を受けましょう。
(平成15年4月8日 毎日新聞掲載)

ヒトの歯の数は乳歯で20本、永久歯で「親知らず」を除いて28本です。しかし、実際には歯の数はこれよりも多かったり、少なかったりすることがあります。
歯が多い場合で最もよくあるのが、「親知らず」(第3大臼歯)です。一般にこの歯は正常歯列に含まないのですが、「親知らず」がきちんと萌出して機能している方の歯数は32本になります。その他に乳歯でも永久歯でもない歯が生えることがあり、これは「過剰歯」と呼ばれています。「過剰歯」は上顎の正中部(ちょうど真ん中の部分)によく見られ、また臼歯部にある場合もありますが、歯並びや咀嚼に影響のあるときは抜歯が必要です。
一方、歯の数が少ないこともあります。乳歯でも永久歯でも前歯の本数が少ない場合や、後続の永久歯がないために乳歯が生えかわらないことはまれではありません。先天的に歯の数は少なくてもそれほど問題にならないこともありますが、何らかの支障がある場合は治療が必要です。ある時期まで乳歯を永久歯の代わりとして機能させ、その後、人工の歯で補うことが可能なケースもあります。また歯が顎の骨の中にもぐっていて見えない場合(「埋伏歯」といいます)があります。「埋伏歯」は犬歯や小臼歯によく見られ、手術と矯正装置によって正常な位置に引っ張り出すことが必要なこともあります。
歯の数を調べたりするには、X線診査が非常に有効です。
(平成17年9月8日 毎日新聞掲載)

歯の役割は?と尋ねられたら、誰でも食べ物を噛むことと答えます。その通りですが、28本の歯はそれぞれ形が異なり役割が分担されています。
「切歯」と呼ばれる前歯と犬歯は噛み切るため、「小臼歯」は噛み砕き、「大臼歯」は擦りつぶすというふうに口の中を上下左右に4分割した中で、それぞれの歯が仕事をしています。
そして歯で咀嚼された食べ物は、唾液とまざり一塊り(食塊)となり咽頭へ送られ飲み込まれます。この一連の動きを嚥下といい、非常に複雑で面白い仕組みです。食塊が大臼歯の後ろまで運ばれると、舌と筋肉により圧力を高め、食塊は咽頭に達します。その時、いろいろな弁が開閉し、食べたものが食道以外の鼻や気管へ行かないようにうまくできています。だから、寝ころんだまま食べたり飲んだりしても、ちゃんと食道へ入っていくわけです。食道へ吸いこまれる時、呼吸はいったん停止しているのです。
普段何気なく食事をしていますが、複雑な過程があることを知っていただけたと思います。
(平成15年3月8日 毎日新聞掲載)

成人が正常歯列として持つ28本の歯に含まれないのが、第3大臼歯、すなわち「親知らず」です。なぜ、正常歯列に含まないのか。それは、出生後18年から30年を経て生えてくるか、あごの骨の中に埋伏したまま一生過ごすか、人によっては全く欠如している場合もあるからです。
こう書けばおわかりいただけると思いますが、「親知らず」は退化傾向にあります。人類が進化する中で、食べる物もだんだんと調理されるようになり、大臼歯が3本も必要がなくなったと思われます。将来的には、人類から「親知らず」は消え去るかも知れません。
それでは、現代人は「親知らず」についてどう考えればよいのでしょう。まず、正常に第3大臼歯として生えて、噛むという役割を果たしている場合でも、人類のあごの骨は少しずつ小さくなっていますので、第3大臼歯が生えていますと、その周囲は非常に清掃しにくく、むし歯や歯周病が発生しやすいと言われています。
次に、第3大臼歯の一部だけが口の中に顔を出している状態がありますが、歯科医師が患者さんから最も多く相談を受けるケースです。時々痛みや腫れを繰り返し、人々を悩ませます。完全にあごの骨の中に埋まっている場合でも、水平に位置して前の第2大臼歯を押しているケースもあります。最近、研究されていますが、第1、第2大臼歯が悪くなって抜歯になった時、その場所へ第3大臼歯を移植する方法もあります。
(平成15年8月8日 毎日新聞掲載)

むし歯(う蝕)はむし歯菌が産生する酸によって歯が溶かされ(脱灰)、歯に穴があいてくる病気ですが、う蝕以外でも歯の表面で酸性の状態が続くと歯の一部が溶かされることがあり、これを「酸蝕(症)」と呼びます。「酸蝕」はかつて酸を扱う職業の人に多くみられましたが、環境の整備により職業に関連する「酸蝕」は減少しました。しかし、近年新たな原因による「酸蝕」が、世界的にも増加していると報告されています。
原因のひとつに、若年者に多くみられる拒食症や過食症といった摂食障害に伴う嘔吐を繰り返すことにより、胃酸により歯が溶けるという現象が指摘されています。この場合には、上顎前歯の裏側の歯質が溶かされることが多いといわれています。
また、食品由来の酸も摂取の仕方によっては酸蝕の原因になります。ほとんどの清涼飲料には酸がふくまれていますし、柑橘類も酸性の強い食品です。これらの食品を繰り返し、大量に摂取していると、歯の表面が溶けて前歯が薄くなったり、奥歯に凹みが生じるケースがあります。健康志向で食酢を直接摂取することも歯のためにはあまりお勧めはできません。酸性の食品は長く口の中にとどめず、食後に水で洗い流すようなことも必要でしょう。
(平成18年3月8日 毎日新聞掲載)

人の歯の色は個人差が大きく、一見白色が基調でも黄色っぽい色や、グレーやブラウンの強い色調の歯の色も自然なのです。けれども自然の歯がコンプレックスになって人前であまり笑えないとか、いつも手で口を覆いながら話してしまうなど個々にさまざまな悩みをかかえている人がいるのも事実です。
歯が少しくらい黄色でももちろん病気ではありませんが、現在の歯科の技術では、歯の色を変える(主には白くする)ことも可能になってきています。歯を白くするには、特殊な薬剤を使って歯を削らず漂白するホワイトニングや、歯の表面を一層削って薄いセラミックを貼るラミーネートベニア法、歯の周りを削ってかぶせるセラミッククラウンなどがあります。
歯を白くすることによって自信がもて、性格が明るくなったり、また、きれいになった歯を維持しようと口腔ケアの意識が高まることでむし歯や歯周病の予防につながることもあります。当然美意識、価値観には個人差があると思いますが、歯を白くしたい方は宣伝に惑わされず、歯を白くする利点、欠点をかかりつけの歯科医とよく相談し理解してご自身で判断することが大切です。
(平成18年7月8日 毎日新聞掲載)

歯は嗜好品(コーヒー、ワイン、お茶など)によって表面にステイン(着色汚れ)が付き、黄ばんだり黒っぽくなったりします。また喫煙により、歯の裏が真っ黒になるだけでなく、表面でも歯ブラシが届きにくい個所が茶色く汚れてきます。歯が天然歯の場合、歯そのものが変色しているわけではありませんので、外から付いた汚れは取り除くことができます。女性が美容院で髪を染めなおすように、定期的に歯科医院を訪ねて、歯をポリッシングされる人が増えてきています。
一方、歯に詰めたりかぶせたりする材料である合成樹脂(保険診療)の場合は、同じ原因でステインが付いても修復材料自体が変色するため、再治療しなければならないことがあります。また合成樹脂は天然歯ほどの硬さがありませんので、表面に傷が付き、そこに汚れがたまることがあります。ポーセレンやハイブリッド材料など主に私費治療に使われる材料では、表面の硬さが十分なので、天然歯と同様にポリッシングできれいに汚れが落とせます。ただ歯を強く打った後、しばらくして歯が茶色に変色してくることがありますが、ダメージを受けて変性した歯髄組織からしみ出した赤血球や細胞成分が歯の内部から変色させているためで、表面をいくら研磨しても改善しません。
(平成18年9月8日 毎日新聞掲載)

 42歳の主婦です。歯を磨くと時々歯ぐきから出血するので、歯槽膿漏が心配なのですが。(42歳 女性)

【回答】
現在は歯槽膿漏という言葉は用いず、歯の周囲の病気は歯周病と呼んでいます。歯周病の症状は、歯ぐきが腫れる、口の中がネバネバする、歯が動くなどたくさんありますが、歯ぐきからの出血は分かりやすい症状の一つです。歯周病の主な原因は歯垢(デンタルプラーク)です。歯垢は食べ物の残りが歯にくっついているのではなく、ほとんどの成分は細菌です。歯の表面の歯ぐきに接しているところに歯垢がたまると、細菌から出る毒素などの影響で、歯ぐきに炎症が起こり、その部位の血管は出血しやすい状態になり、少しの刺激(歯磨きなど)で出血するわけです。
歯周病は歯肉炎と歯周炎に分けられています。前者は歯ぐきの部分だけの炎症ですが、後者は歯を支えている骨にまで炎症が及んでいる状態を言います。この2つを診断するにはレントゲン検査が必要ですが、ご相談されている状態は歯肉炎の可能性が高いと思われます。歯肉炎であれば正しい歯磨き(ブラッシング)で歯垢を取り除き、必要であれば歯石を除去することにより、ほぼ100%治ると考えられます。もし、歯周炎の状態であったとしても、適切な治療を受ければ、長く歯の状態を良好に保つことが可能です。
(平成15年8月22日 毎日新聞掲載)

 友人で歯周病の治療にずっと通っている人がいます。歯周病は完全には治らないのでしょうか。(55歳 女性)

【回答】
歯周病は歯の周りで炎症が起こり、無症状で進行することが多く、放置しておくと歯の周りの組織が破壊されてゆく病気です。一口に歯周病といっても軽度から中程度、重度といろいろな場合があります。以前この欄でも触れましたが、歯の周りの炎症が歯ぐきだけの場合を歯肉炎、炎症が歯ぐきだけでなく歯を支えている骨にまで影響している場合を歯周炎と分類していて、後者の方が重症ということになります。
歯肉炎であれば、その原因である歯垢(細菌の塊)を取り除けば、ほぼ完全に治癒すると考えられます。これに対して、歯周炎の場合は失われた組織を元に戻すことは、一般的にはできないのが現状です(もちろん歯科においても再生医学は進歩していますが)。ですから、歯周炎における治療のゴールは多くの場合、歯周組織の破壊の進行を大幅にスローダウンさせて、歯の機能を長期間維持させることになります。
中程度から重度の歯周炎のケースでは、一連の歯周炎の治療が終了しても、多くの歯は歯が失われるかどうかの、いわばがけっぷちに立たされていると考えられるのです。もう一度後ろから押されれば(再発すれば)、がけ下に転落して失われてしまうのです。ですからしっかりと足を踏ん張らねばならず、そのためには、一連の治療の終了後も、定期的に歯周病に関連した検査を受け、歯磨きの状態をチェックしてもらい、歯石や歯垢の除去といったケアを受ける必要があります。
このことはメインテナンスと呼ばれ、現在は歯周病の治療の一環として位置付けられています。
(平成16年8月27日 毎日新聞掲載)

 最近、家族から口臭があると言われました。以前、歯の検診で歯周病と診断されましたが、仕事が忙しくそのままにしていました。口臭と歯周病は関係あるのでしょうか?(45歳 男性)

【回答】
現代社会では、口臭に悩んでいる人は少なくありません。口臭にはさまざまな原因がありますが、生理的口臭(誰にでもあり起床時、空腹時等に一時的に強くなる口臭)を除いて病的な口臭の約80%以上は、口の中に原因があり、そのほとんどが歯周病と言われています。
口の中には何百億もの細菌がおり、これらのうちのある種の細菌が口の中のたんぱく質を分解する際に口臭の元となる臭気成分を作り出し、においが発生します。この臭気成分と歯周病との進行には相関関係があり、歯周病が進行すればするほど、臭気は強くなります。
では、なぜ歯周病が強い口臭の原因になるのでしょう。口の中の清掃が不十分ですと、歯周病の原因であるプラーク(主に細菌の集まり)がたまっていき、酸素のないプラークの深い部分に嫌気性菌(いわゆる歯周病の原因菌)が増え、歯周病を進行させます。さらにその菌が、破壊された組織や血球成分などのたんぱく質を分解し、臭気成分を作り出すからです。
ご質問の方は、以前には初期の歯周病であったものが口臭を指摘されるほど進行したものと思われます。早期に歯周病治療を受けられることにより嫌気性菌を取り除いた後、プラークがたまらないようセルフケアに加えて定期的な口腔清掃処置を受けることが大切です。
(平成16年11月26日 毎日新聞掲載)

 13歳の娘のことで相談します。最近、歯磨きすると時々歯ぐきに血がにじむことがあるそうで、早く歯医者さんでみてもらいなさいと言っていますが、クラブが忙しいとかでなかなか行きません。歯周病ではないかと心配です。(41歳 主婦)

【回答】
子供の歯肉の状態の調査(平成11年歯科疾患実態調査)では、5〜14歳の子供の19%に歯肉の炎症状態があり、約17%に歯石があったと報告されています。思春期に歯肉が一時的にはれたり、少しの刺激で歯肉からの出血があったりする症状はほとんどの場合、思春期性歯肉炎と考えられます。歯肉炎の主な原因は歯垢(細菌の塊)の蓄積ですが、思春期にはホルモンの分泌が増え、特に女性ホルモンは歯肉の炎症を助長したり、ある種の歯周病原因菌の増殖を助けたりするといわれています。しかし思春期性歯肉炎は男子にも多くあるので、この時期に歯垢が蓄積する生活環境が問題となります。
思春期の子供はクラブや塾で忙しく、また、歯垢を形成しやすいファストフードや菓子類を食べる機会も多いようです。昼間は口腔清掃をする機会も少なく、家庭での口腔清掃もこの時期には本人に任せられているでしょうから、専門的な指導を受けていないと、おろそかになる傾向にあります。
思春期の歯肉炎は口腔の清潔が保たれ、必要であれば歯石を取れば、ほとんどの場合問題なく健康な状態を回復します。しかし、思春期の子供でもまれに早期発症型歯周炎(侵襲型歯周炎)と呼ばれる、大人と同じように歯を支えている骨にまで炎症が影響しているようなケースがあります。もし、この型の歯周炎であれば、出きるだけ早く専門的な治療を受ける必要があります。
(平成17年7月29日 毎日新聞掲載)

 一度、神経を抜いた歯でも、痛むことがあると聞きましたが本当ですか。(38歳 男性)

【回答】
歯の痛みを感じる経路には大きく分けて2種類あります。一つは歯の内部の歯髄にある神経で、むし歯がひどくなると、ここが痛みます。もう一つは歯の周りを支えている歯根膜にある神経です。歯を抜くときに麻酔注射をするのは、この部分です。
むし歯が進行して、穴が深くなると歯髄に炎症が起こり激痛が走ります。このような場合、歯科医は、歯髄を取り除いて痛みを軽減させます。これが、一般的に「神経を抜く」と呼ばれている歯の神経の処置です。しかし、この処置も、長期的には100%完全とは言えません。というのも、歯の根っこの歯髄が入っている管(根管と呼ばれます)の形は、曲がっていたり、先の方で枝分かれしていたりと大変複雑なため、歯髄を完全に取り除くことが難しい場合があるからです。もちろん、臨床歯科医も研究者も、この成功率を100%に近づけるために努力をしていますが、数%は、後に炎症が起こる可能性があります。また、歯髄の処置をした後でも、今度は、歯周病で痛むことがありますし、歯が割れたりして痛むこともあります。
ですから、歯の神経の処置が必要なほど重症になる前に、早期に治療を受けることが重要ですし、そのためには、歯の状態を定期的に専門家にチェックしてもらうことが大切なわけです。
(平成15年11月21日 毎日新聞掲載)

 昼間から気になっていたむし歯が、夜中になって急にズキンズキンと痛み出し、夜間に歯科医院が開いていなかったので、結局朝まで一睡もできませんでした。むし歯は夜の方が痛むのですか。(34歳 男性)

【回答】
歯の痛みはリウマチ、陣痛と並んで3大疼痛に数えられることもあるほどつらいものですが、それが夜間となれば、眠りを妨げることにもなるのでなおさらです。
さて、質問の歯の痛みは、実際に口の中を診ないと断定できませんが、硬い歯の真ん中にある歯髄(一般には歯の神経と呼ばれています)に炎症が生じた歯髄炎によるものではないかと考えられます。
昼間にも何らかの兆候や症状があるのが普通ですが、他の刺激で気がまぎらわされているためそれほど強い痛みを感じないとも言われています。歯髄が炎症を起こし腫れている状態で、夜間就寝のため横になると、歯髄への血の流れ(血流)が増し、内部の圧力(内圧)が高くなり痛みが起こります。動脈からの血流が神経を圧迫して、脈拍に合わせてあのズキンズキンとする拍動性の強い痛みが起きます。一般的な処置としては、歯髄を除去する(神経をとる)ことになりますが、歯医者さんを受診され相談されることが必要です。
大阪府歯科医師会が昨年、府民を対象に実施したアンケートでは、夜間など診療時間外に歯痛で困った経験のある人は44%もあり、さらに88%の方が夜間における緊急歯科診療の必要性を感じておられます。府歯科医師会では、万一、夜間に歯痛が起こったときでも安心して受診いただけるよう、2004年度のできるだけ早い時期に、365日体制の夜間緊急歯科診療所を会館内に開設するため、準備を進めています。
(平成16年2月27日 毎日新聞掲載)
※ 平成16年6月より大阪府歯科医師会では夜間緊急歯科診療を行っています。

 同じように生活している兄弟で、上の6歳の子にはむし歯がないのに、下の4歳の子には乳歯のむし歯が数本できてしまいました。何が違うのでしょう。(35歳 女性会社員)

【回答】
むし歯(う蝕)はむし歯菌の活動で作られた酸が、歯の表面を溶かして穴をあけてしまう病気です。むし歯ができやすいかどうかは、むし歯菌(ミュータンス菌)の多さ、唾液の量や性質、1日に飲食する回数や糖分の量などが関係します。実は糖分を含んだものを食べると、むし歯菌の働きにより、その度に目には見えないのですが、歯の表面はごく少しだけ溶かされているのです。しかし、やがて唾液が酸を洗い流し、唾液の中のカルシウムが歯の表面に付着して、溶かされた部分はふさがり、元通りの状態になるのです。この現象は再石灰化と呼ばれています。酸が歯を溶かす状態(脱灰)が何度も続くと再石灰化が間に合わなくなり、とうとう大きな穴があいてしまい、目でも見えるむし歯になってしまいます。相談の兄弟は、歯の表面の質や唾液の性質にはあまり差がないと考えられますし、食事の時間や内容も似かよっていると思われますので、違いは間食(おやつ)の食べ方ではないでしょうか。甘い間食も同じように与えておられると思いますが、量は同じでも、何度にも分けて食べたり飲んだりすると、その都度歯は溶かされていることになり、むし歯になりやすいのです。また寝る前に食べると、睡眠中は唾液の出る量が減るので、とくにむし歯になりやすくなります。二人とも
これから永久歯のむし歯にも気をつけなければならない時期ですので、歯磨きの習慣と同時に間食の食べ方にも注意が必要でしょう。
(平成16年3月26日 毎日新聞掲載)

 5歳の子供がいます。幸いにして乳歯のむし歯はありませんが、奥に永久歯がはえてきました。朝晩の歯磨きはかかしていませんが、今後むし歯の予防にはどのようなことに注意すればよいでしょうか。(32歳 主婦)

【回答】
近年わが国ではむし歯(う蝕)の発生は減少する傾向にあります。特に学童期では、12歳児で80年ごろには1人平均で6本近い永久歯のむし歯ができていたのが、99年の調査では2.4本にまで減っています。わが国でむし歯が減少した理由としては、口腔保健への意識が高まったこと(健康志向)、歯科医療機関の充足と充実、歯科健診体制の充実、それに伴いフッ化物応用や砂糖の摂取量についても国民が考えるようになりました。しかし、むし歯は歯周病と並び歯科の二大疾患であることに変わりはなく、特に若年者が歯を喪失する原因となっています。
むし歯になりやすいかどうかという要因(カリエスリスクと呼びます)には、ミュータンス菌の数、唾液の量と質、飲食の種類と回数、歯垢(デンタルプラーク)蓄積の度合、フッ素の使用状況などがあり、生活習慣とも関連していて単純ではありません。ですから、むし歯の予防法も毎日歯を磨いているから大丈夫というわけにはいきません。
家庭でできるむし歯予防のポイントとして、口の中を清潔に保つ、バランスの良い食事をよくかんで食べる、間食の回数を減らし時間を決めるなどが考えられますが、定期的に歯科を受診して、専門的な検査と保健指導を受けることも大切です。さらに専門家による歯面清掃、フッ化物の歯面塗布、むし歯にかかりやすい歯の溝を予防的にふさぐ処置も有効です。
(平成17年4月29日 毎日新聞掲載)

 フッ素入りの歯磨き剤が市販されていますが、むし歯の予防に有効なのでしょうか。(38歳 主婦)

【回答】
フッ素がう蝕(むし歯)の予防に有効なのは次のような理由からです。
(1)歯の表面にフッ素が作用すると、むし歯菌が作る酸に対して歯が溶けにくくなる。(2)フッ素そのものに細菌が増えるのを抑える作用がある。(3)いったん、歯の表面が溶けても(脱灰)、フッ素が持続的にはたらくと、もとに戻る作用(再石灰化)がある。とくに近年はこの再石灰化作用が重要視されています。これらのことからフッ素を歯磨き剤に配合して、う蝕の予防に役立てる試みは50年以上の歴史があり、広範な研究によりその効果が確かめられています。フッ素入り歯磨き剤の使用は、現在先進国でう蝕が減少している原因の一つと考えられています。
フッ素入り歯磨き剤の使用に際しては、できるだけ長い時間、歯の表面にフッ素をとどめて作用させることが有効です。このためには、1日2回以上フッ素入りの歯磨き剤を使用し、ブラッシング後、うがいをしすぎたり、すぐに飲食しないように注意が必要です。フッ素入り歯磨き剤の使用は、学童期、若年者のう蝕の予防にも、高齢者の歯根部分のう蝕予防にも有効であると報告されています。しかし、う蝕の発生は生活習慣とも関連が深く、フッ素だけに頼るのではなく、バランスの良い食習慣、生活習慣の中でフッ素を利用するように心がけることが大切です。
(平成18年4月28日 毎日新聞掲載)

 キシリトールが入った製品がたくさん市販されていますが、むし歯の予防に本当に有効なのでしょうか。(28歳 女性)

【回答】
むし歯はプラーク(細菌の塊)の中でミュータンス菌が産生する酸により、歯の表面が溶けて穴があいてしまう病気です。むし歯になりやすいかどうかという要因には、ミュータンス菌の数、だ液の量と質、歯の表面の性状、飲食の種類と回数、プラーク蓄積の度合い等があり単純ではありません。
食物とむし歯との関係では、砂糖がミュータンス菌の活動を活発化させ、むし歯をつくりやすくすることはよく知られています。これに対して、砂糖と同程度の甘味をもつキシリトールからはミュータンス菌の働きで酸が産生されることはありません。また、キシリトールは細菌のエネルギー源にならず、ミュータンス菌の量を減少させることも報告されています。キシリトールがむし歯予防の効果を発揮するためには、製品に甘味料としてキシリトールが50%以上含まれていることが望ましく、1日3、4回食べることが効果的だといわれています。
このようにキシリトールは適切に摂取すれば、むし歯の予防に有効であると考えられていますが、最初に述べたようにむし歯が発生するかどうかにはいろいろな要素が関係しているので、キシリトールの使用だけでむし歯が予防できるわけではありません。生活環境の中でむし歯のリスクを総合的に減らしていくことが大切です。
(平成18年9月29日 毎日新聞掲載)

 6歳の息子が、よくおやつを欲しがります。むし歯がこわいのですが、歯のためを考えるとどのように与えたらよいのでしょうか。(34歳 女性)

【回答】
子どものおやつは必要な栄養をとるという意味で、あくまでも「間食」と考えるべきです。それは一般的に大人と違い子どもは、一度に食べる量が少ないので、ご飯とご飯の間に栄養という面からもおやつの時間が必要になるからです。ですから子どもが欲しがるといって、いつもスナック菓子やジュース類を与えるのは栄養のバランスという面からも問題があります。
歯についてはおやつをだらだらと長時間食べることは、それほど甘くないお菓子でもむし歯になる危険性を高めます。糖分を摂取すると、むし歯の原因菌であるミュータンス菌が糖を分解して酸を作り、歯の表面のエナメル質を溶かし始め、これは食後40分位続くといわれています。ですから何回もだらだら食べると酸性の状態が持続しむし歯になってしまう危険性が高いのです。おやつは決めた時間に食べ、その後、歯磨きするか、最後に水かお茶を飲む習慣をつけると、むし歯に関する問題は少なくなるでしょう。
最近「食育」という言葉をよく耳にします。「食育」とは国民一人一人が生涯を通じて健全な食生活を実現し、個人の健康の確保を図ることができるよう、食について考える習慣を身につけることをいいます。子どもの健康な発育のために「間食」も含めて「食育」の大切さを考えるべきでしょう。
(平成19年3月30日 毎日新聞掲載)

 以前、運動中のケガで歯が抜けた事があります。スポーツ中の口の周りのケガを予防する物があると聞きましたがどんなものでしょうか?(25歳 男性)

【回答】
(1)運動中に転倒やぶつかるなどして歯のケガをされて、歯科医院へ来られることがよくあります。特に秋は運動会が多く開催されるなどスポーツの季節で、このような患者さんが増える傾向にあります。スポーツにはこのようなケガ(スポーツ外傷)がつきものですが、特に動きが速いコンタクト(接触)の多いスポーツ(サッカー、バスケットボールなど)では、歯だけでなく顎や口の周りのケガの発生率が高くなっています。
その安全対策として、マウスガード(マウスピース、マウスプロテクター)と呼ばれる口の中に装着する保護装置があり、スポーツ外傷をかなりの割合で防ぐことができます。これはゴムようの材質で作られていて、歯や歯ぐきをすっぽりと包むような形をしています。これをはめることで、衝撃を吸収して歯、歯ぐき、顎だけでなく脳へのダメージも弱めると言われています。歯科医院で型を取って精密に作ったマウスガードは、装着感も良く安全ですので一度ご相談ください。
質問のように歯が抜けたり歯が折れたりした場合は、できるだけ早く近くの歯科医院で処置を受けてください。抜け落ちた歯は清潔にして、歯についている泥やホコリなどの汚れはさっと水で洗う程度にして、口の中に含んだままか、牛乳などに浸すか、ぬらしたハンカチなどで包むかして、乾燥させないようにして持って行ってください。条件がよければ元に戻すことができる場合があります。
(平成15年10月24日 毎日新聞掲載)

 夫の介護をしています。義歯の手入れについて教えて下さい。(68歳 女性)

【回答】
介護を受けている高齢者には義歯を装着しておられる方も多いと思います。毎食ごとの義歯の手入れは骨の折れる作業だとお察しします。消毒の意味を兼ねてでしょうが、熱湯で洗浄しておられる方もあるようです。しかし、義歯の材料である合成樹脂は熱に弱く、熱湯につけると変形することがありますから、熱湯消毒は絶対に避けて下さい。
義歯につく汚れはデンタルプラークです。これは細菌の集団で、バイオフィルムという粘着性のある膜を形成していますので、もともとお湯につけたくらいでは除去できません。薬液消毒も効果はなく、ブラシで機械的に取り除くほか方法はありません。ただし歯磨き剤は使わないで下さい。 市販の歯磨き剤には歯のステイン(たばこのヤニやお茶・コーヒー等の着色汚れ)をとるための研磨剤が含まれていることが多く、これで磨くと義歯の合成樹脂は簡単に摩耗し、不適合の原因となってしまいます。また週に一度くらいは義歯洗浄剤で頑固な汚れやにおいを取り除き、さっぱりさせてあげるといいでしょう。
義歯は硬いものや弾力性のあるものをかむのには十分な強さがありますが、高いところから落としたような衝撃には弱いものです。陶器製の手洗いシンクなどで清掃しているときに義歯を誤って落とすと、当たり所が悪いときには欠けたり割れたりすることがありますので、大切に扱って下さい。また、義歯は乾燥すると変形することがあります。夜間など外しておくときには水につけておきましょう。
(平成18年2月26日 毎日新聞掲載)

 部分入れ歯を使っています。現在は具合よくかめていますが、どのくらい使えるものなのか教えてください。また、長く使うために注意することがあれば教えてください。(63歳 女性)

【回答】
一口に部分入れ歯といってもさまざまな形態や素材のものがあり、使用できる期間は一概に言えません。ただし、長く使っていくために気をつけるべき点はある程度共通しています。
入れ歯が使えなくなる原因の多くは入れ歯を支えている残存歯の喪失と義歯そのものの破損です。部分入れ歯では金具で入れ歯を歯に固定するようになっていますが、金具をかけている歯には負担がかかりやすく、歯垢(プラーク)もたまりやすくなるため、ほかの歯よりも悪くなりやすい傾向があります。また、ぴったりと合った入れ歯が破損することは比較的まれですが、入れ歯の下の歯茎の部分が少しずつやせてきて、入れ歯と合わなくなるとかみ合わせの力が均等に分散しなくなるため、入れ歯や金具が破損しやすくなります。さらに長期間使用している場合には、入れ歯の歯の部分がすり減ってくるためかみ合わせが悪くなってくることもあります。
入れ歯を長く使うための秘けつとしては、まずご自身で入れ歯と残存歯を清潔に保つようしっかり清掃することが大切です。そして、最低でも半年に1度くらいは残存歯と入れ歯の定期健診を受けて、具合が悪くなった部分を早めに処置することです。
(平成18年12月22日 毎日新聞掲載)

 4歳の息子が受け口で心配です。大きくなっても治らないものなのでしょうか。また、このまま放置してよいものでしょうか。教えてください。(32歳 主婦)

【回答】
受け口の原因として次の三つのケースが考えられます。すなわち、(1)上顎より下顎が前にあることが原因の「骨格性の場合」、(2)上の歯と下の歯の前後関係が逆さまになっていることが原因の「歯槽性の場合」、(3)として(1)と(2)の両方が原因の場合です。
お子さんの年齢から、永久歯列(大人の歯並び)の受け口ではなく、乳歯列(子どもの歯並び)の受け口と判断されますが、この乳歯列の受け口にも、やはり(1)〜(3)のタイプがあります。上顎の成長は小学校の中学年から高学年くらいまでに大部分が終わります。しかし、下顎の成長が最も盛んになるのは思春期です。
人間の頭の部分と顔の部分では、頭の方が先に成長が完了します。一般的に、頭は、生まれたころは成人の半分程度ですが、6歳ごろには成人のほぼ9割程度にまで成長します。このため、6歳ごろまでの幼い時期に矯正治療などによって頭に力を加えると、頭が変形するようなことが起こったりします。また、個人差もありますが、前歯が生え変わってくるのも6歳前後です。ですから、このころまでは様子を見ることが多くなります。
ご心配だとは思いますが、お子さんの受け口が(1)〜(3)のどのタイプであっても、今は様子を見ることになります。ただ、様子を見るといっても放置しておいて良いということではありませんので、かかりつけの歯科医師や専門医に診断してもらうことをお勧めします。
(平成16年5月28日 毎日新聞掲載)

 41歳の主婦ですが、歯並びが悪いことに悩んでいます。
見た目が悪いだけでなく、歯を磨く際にもきれいに磨けず、困っています。この年齢になっても歯並びを治すことはできるのでしょうか。(41歳 主婦)


【回答】
基本的に年齢制限はありません。歯の根を支える周りの組織が健康であれば、歯並びを治す矯正治療はできます。
歯の根の周りの組織は、図のように内側から順に、歯根膜、歯槽骨、歯肉からなっています。歯並びを良くするためには歯に装置をつけ、力をかけて歯槽骨の中で歯を移動させます。力を受けた側の骨(下図の斜線部分)は吸収(減っていく)され、引っ張られた側の骨は添加(増えていく)します。これを繰り返すことにより、歯を適切な位置に移動させていきます。このような現象(骨の改造現象)を利用しますので、年齢は低い方が早く移動します。
また、歯を適切な位置に移動させた後、後戻りを防ぐために、歯を移動させた期間と同期間程度、歯をその適切な位置に止めて安定させる(保定)必要があります。骨折した時に、一般的には子どもの方が大人よりも早く治るのと同じ現象で、これも年齢の低い方が早く安定します。また、大人の場合には歯を適切な位置に保つため、半永久的に固定する場合もあります。
若いうちに矯正治療をされた方がご本人の負担は少なく済みます。
(平成16年12月25日 毎日新聞載)

 7歳の娘の歯並びが悪く悩んでいます。永久歯と乳歯が混在しており、子どもの歯科矯正治療はいつごろから始めたらよいのでしょうか?(35歳 主婦)

【回答】
<治療の時期は大きく二つにわかれます>
治療段階は、乳歯と永久歯が混ざっている時期の治療(第1期、小学生)と、永久歯がそろってからの治療(第2期、小学校高学年から中学生)に分けて考えます。それぞれの目的は次のようになります。
第1期(早期治療)=将来のことを考え、あごの成長・歯のはえかわりを望ましい状況に近づける。
第2期(本格的治療)=ブラケットと呼ばれる装置を歯につけ、ワイヤを用いることで、より望ましいかみ合わせを得る。
また、治療に必要な期間は第1段階では約2〜3年、第2段階では2年程度と思われます。
<第1期早期治療が必要な場合>
あごの成長や歯のはえかわりに問題があると考えられる場合や、指しゃぶりなどの不良習癖を伴う場合は、小学校低学年ごろから治療を行います。一般的に受け口などはこの時期からの治療が必要なことが多いようです。また、乳歯がむし歯などで早くに抜けてしまった場合もこの時期の対応が大切になります。
<小学校高学年のころがとても大事です!>
いわゆる乱杭歯が見込まれる場合(軽度〜中等度)、この時期から適切にアプローチを始めれば、永久歯を抜かずに治療が進められる確率が増えます。
(平成17年5月27日 毎日新聞掲載)

 娘の矯正治療が終了し、きれいな歯並びになったばかりか性格まで明るくなりとても喜んでいます。出来れば私も矯正治療に通いたいのですが、今からでも間に合うのでしょうか。(45歳 主婦)

【回答】
大人の矯正治療と子どもの矯正治療は、大変異なります。そのもっとも大きな違いは、成長発育という点です。
成長期にあるお子さんの矯正治療の場合は、顎の成長発育を正しい方向へ導きながら、歯を良い位置に移動していくのが、通常の治療方法です。
ところが、大人の矯正治療の場合は、すでに、成長は止まり、顎の骨の形も完成されていますので、この点が大きく異なります。また、むし歯の状態、治療済みの状況、そして歯を支える歯肉の状況など、年を重ねてきた分、子どもの場合より考慮しなければいけない要素は多くなります。
しかし、大人になってからの矯正治療が悪いことばかりで、望ましくないということではありません。本人の治したいという意思が明確であることも大変重要なことです。歯を移動する一般的な矯正治療はもちろんのこと、現在では、手術を併用する外科的矯正歯科治療も珍しくありません。
(平成17年6月24日 毎日新聞掲載)

 歯並びを治すために、歯を抜くことがありますか?最近、歯を抜かないで矯正治療ができるといったことを聞いたのですが。(38歳 主婦)

【回答】
この問題は、歯科矯正治療をはじめるにあたって、患者さんにとって大変心配で気がかりなことであると思います。また、歯科医師にとっても診断上重要な要素になります。歯科医師が矯正治療を開始しようとする場合、最初から安易に歯を抜こうと考えることはありません。なんとか歯を抜かずに治療が出来ないものかと案じ、そのためにいろいろな方法を考えますが、それには限界もあります。
患者さんからも、なんとか歯を抜かずに矯正治療ができないかとの質問を受けますが、答えは、「歯を抜かずに治して患者さんの噛み合わせが良好で、口元のバランスもよく矯正治療後の歯並びが長年にわたって安定すると判断できる場合には歯を抜かない」ということになります。特に乳歯から永久歯に生え変わる時期に適切に対応することによって、歯を抜かないで治療を行える可能性が高まるということがあります。
しかし、治療結果を悪くしてまで歯を抜かないという判断はできません。抜歯が必要な症例にもかかわらず、無理に歯を抜かずに治療をして、結局良くならなかったのでは、何のために矯正治療を受けたのかということになります。歯を抜くか、抜かないかという一つの問題だけが大切なのではなく、患者さんにとって総合的にどのような治療法がベストかを十分に検討し、また相談することが重要であると考えます。
(平成17年11月25日 毎日新聞掲載)

 永久歯の数が足らないと指摘されたのですが、どう対処したらよいのでしょうか。(14歳 女性)

【回答】
歯が生まれつき足らないことを歯の先天欠如と呼びます。ひと口に歯の数が足らないといっても、いろいろな可能性があります。何本不足しているのか、どの場所の歯が足らないのか。その状況によって、これからとるべき方針が変わってくると考えられます。
それではなぜ歯が足らないということが起こるのでしょうか。歯の先天欠如はあごの中で歯が作られるべき初期の段階における障害のために起こるといわれていますが、全部の歯が無いといった場合などを除いて、その原因ははっきりわかっていません。それでは、足らないところに対する処置としてどのようなことが考えられるでしょうか。
(1)乳歯を残しておく(2)足らないところを人工的なもので補う(3)残りの永久歯をうまく誘導して足らない部分のすきまを補う(矯正歯科治療)(4)歯の先天欠如の数が多い場合、(2)と(3)を組み合わせる  などが挙げられます。
乳歯はその大きさや根の形から長く安定しているとはいえません。しかし、場所によっては、比較的乳歯が長く残る場合もあります。ただ、かみ合わせは、理想的なものにはなりません。足らないところを人工的なもので補う、ブリッジや最近ではインプラントなどが考えられます。ただ、最終的な処置は成長が完了する10代後半まで待つ方が良いと思います。他の存在する歯やあごの状況などを総合的に判断し、歯の足らない状況による悪影響をできる限り少なくするために、矯正歯科治療を行うかあるいは矯正歯科治療と人工的なものを補う処置を組み合わせるといった方法が最も良いと思われます。
(平成18年9月1日 毎日新聞掲載)

 寝たきりの母の入れ歯が合わなくなって困っています。歯医者さんが往診してくれると聞いたのですが、どうすればいいのでしょうか?(41歳 女性)

【回答】
まずお元気な時に義歯を作ってもらった歯科医に相談してみて下さい。現在、医療保険・介護保険で訪問歯科診療などのサービスが受けられます。大阪府歯科医師会は、89年に老人歯科保健対策推進室を発足させ、これまで訪問歯科診療・訪問口腔ケアへの取り組みを続けてきています。そして府内56の地区歯科医師会や行政・関連団体(医師会・薬剤師会・歯科衛生士会など)に、その大切さを訴えてきました。また、介護保険が始まった前後から介護支援専門員(ケアマネジャー)をはじめとした介護の専門職にも理解と協力をお願いしてきました。その活動が功を奏して、今では地域の歯科医師会に訪問歯科診療の担当窓口があります。そこに連絡を取られたらいいでしょうし、介護保険を利用しておられるのなら、直接ケアマネジャーに相談されてもいいでしょう。
義歯を調整してしっかり食事ができるようになることは、体力と栄養が改善されるだけでなく、生きる意欲をかきたてる原動力となります。また要介護高齢者や重症患者に、お口を清潔に保つ口腔ケアを続けることで、発熱や肺炎(誤嚥性肺炎)を予防できることが、多くの調査研究で分かってきています。寝たきり高齢者にとって口腔ケアは、内科治療にも匹敵する重要なケアであるといわれています。可能なかぎりご自分の口からおいしく食事を取っていただき、豊かな老後をプレゼントできるようにお手伝いしたいと考えています。
(平成15年9月19日 毎日新聞掲載)

 寝たきり老人の介護をしていますが、最近、高齢者の肺炎の原因と口腔内の汚れに関係があると聞きました。本当ですか?(38歳 女性)

【回答】
日本人の死因の第4位は肺炎です。肺炎で死亡する患者の92%は65歳以上の高齢者です。なかでも、要介護高齢者の死因の30〜40%は老人性肺炎によるもので、高齢者にとって肺炎は深刻な疾患です。一般的に風邪をこじらせて肺炎を発症すると思われていますが、高齢者に発症する肺炎の原因の多くは、口腔内雑菌を気管から肺に誤嚥する誤嚥性肺炎です。とくに高齢者の場合、無意識のうちに誤嚥を繰り返しています。病原性細菌を肺に誤嚥すると、本人も知らないうちに発熱を起こし肺炎を発症します。このようにして発症した肺炎を誤嚥性肺炎と呼んでいます。寝たきりの高齢者、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの代謝異常、喫煙者、免疫不全および手術後の患者さんでは、口腔清掃状態が悪くなることが多く、感染しやすい状態になっています。入れ歯や自身の歯には、食物残渣 がくっついています。このような食物残渣には肺炎の原因となる病原性細菌がたくさん付着しており、誤嚥によって気道内に侵入し肺炎を発症してしまうのです。
お口の中の清掃(口腔ケア)をしっかりと行うことによって、誤嚥が生じても口腔内雑菌が肺の中に入ることが少なくなり、肺炎を引き起こすことが防げます。高齢者にとっても口腔ケアは大切で、むし歯の治療や口腔清掃の徹底で高齢者の肺炎予防、肺炎死亡を減少させることができます。日常生活で高齢者によく見られる成人病(糖尿病、心疾患、腎不全、肝障害、慢性肺疾患など)の適切なコントロールや、禁煙、節酒を行うことにより口腔内細菌の病原化を防止できます。元気で長生きするためにはお口の健康が大切です。
(平成16年7月2日 毎日新聞掲載)

 夫は胃ろうカテーテルによる経管栄養で、口から食事はとっておりません。このような場合でも口を清潔にする必要があると聞きましたが、どうしてでしょうか。(65歳 女性)

【回答】
食物の飲み込みがうまく出来ない嚥下障害をお持ちの方や、食物や唾液が誤って気管に入ってしまうために起こる誤嚥性肺炎を予防するために、最近では栄養を入れるための小さな「口」をおなかに開けるPEG(経皮内視鏡的胃ろう造設術)が施行されることが増えてきました。しかし、口で食事をしないからといって患者さんにブラッシングなどは必要ないかというと、そうではありません。
口の中で一日に1リットル以上も分泌される唾液はほとんど飲み下されていますが、使わない口には自浄作用がありませんので、歯や口の中を清潔にしておかないと、細菌のかたまりであるデンタルプラークが増殖して大変不潔になります。このような状態で汚れた唾液が気管に入ると、誤嚥性肺炎を引き起こすことにもなりかねません。
高齢者や重症患者では咳反射が弱くなっていますので、誤って気管に入った異物を咳で出すことが困難になります。また就寝中に少量の唾液が気管に流れ込むこともあり(無症候性誤嚥)、就寝前の口腔ケアは命にかかわる大切なケアであるといえます。胃ろうなどの代替栄養法であっても、誤嚥性肺炎の危険性が回避できるわけではないことを十分ご理解下さい。
「使わない口がもっとも汚い」ということを念頭に、お口を清潔に保つよう心がけて下さい。清潔なお口は誤嚥性肺炎の予防につながるだけではなく、口臭を防いで社会的な孤立(寝たきりの原因)を解消する効果もあります。
(平成17年2月25日 毎日新聞掲載)

 22歳の女性です。最近、歯の健康展などで8020(ハチマルニイマル)という文字をよく目にするのですが、詳しく教えてください。(22歳 女性)

【回答】
80歳になっても20本以上の歯を保ち、健康で楽しい食生活をとの考えで、歯の健康を守り生活習慣の改善に努めようというキャンペーンです。
成人は通常、上下左右の28本の歯で食生活を営んでいますが、高齢になっても20本の歯が残っていれば、食生活を楽しむことができます。調理して食べるようになった私たちは、動物としての、かむという行為の本来の機能を弱めてしまいました。一方、医療技術の発達や生活改善によって人間の寿命を延長させましたが、それに歯の寿命が追いつかず、高齢者の残存歯が少ないのが現状です。
大阪府歯科医師会では毎年秋に行われる大阪歯科保健大会で“8020達成者”表彰式を行っています。80歳以上で自分の歯がたくさん残っている方は、健康で生き生きしておられ、その姿には感動を覚えます。
8020達成のためには、お母さんのおなかに子どもさんが宿ったときからがスタートです。健康な赤ちゃんが誕生し、離乳食の始まる乳幼児期、小学生、中学生とその時々のライフステージに合わせた歯の健康管理について“かかりつけ歯科医”の先生とよく相談し、生涯を通じた歯の健康管理に励んでいただきたいと思います。
(平成15年7月25日 毎日新聞掲載)

 「人生80年」といいますが、歯はどれぐらいもつのでしょう?私はむし歯はないと思うのですが、最近歯が動くような気がします。今までに歯を3本失っており、今後自分の歯を長持ちさせることができるのか心配です。(47歳 主婦)

【回答】
高齢になっても、智歯(親不知)を除く28本の歯のうち、20本以上自分の歯があれば、ほとんどの食べ物をかみ砕くことができ、おいしく食べられるといわれています。快適で健康な老後を送るためには、歯が大切なことはいうまでもありません。
さて、どうして歯が抜けてしまうのでしょう。その原因は主に、むし歯と歯周病です。若い年代はむし歯で歯を失うことが多いのですが、歯周病は自覚的症状が少なく進行する病気で、日本人が40歳以降で歯を失う主な原因になっています。そのため40歳代を境に急速に歯を失うことが多くなり、平均的には60歳で20本、80歳では約10本が残っているにすぎないのが現状です。
問題は、どうすれば自分の歯を健康で長持ちさせることができるのかです。歯を磨いているから、また歯が痛くなった時には歯医者さんに行くから大丈夫というわけではありません。手入れの仕方しだいで、歯の寿命は違ってきます。ちなみに歯の寿命は、平均すると50〜65年との調査結果があります。ある学説によると、歯の寿命を90〜100年にも伸ばすことが可能であるといわれています。
むし歯も歯周病も、最大の原因は歯垢(プラーク)と呼ばれる細菌の塊です。ですから歯垢を取り除くことが、歯の健康を維持するためにはぜひ必要です。そのためにはセルフケア(自分で歯磨きなどの口腔清掃を行うこと)に加えて、定期的に歯科医師や歯科衛生士によるケア(歯石除去や歯面清掃等)を受けることが重要なのです。
ご質問の方は、症状から歯周病の可能性が高いと考えられます。早めに歯科を受診し、適切な治療を受けられ、症状が無くなっても、歯を長持ちさせるために定期的なケアを受けられることをお勧めします。
(平成16年7月30日 毎日新聞掲載)

 娘がもらってきた小学校の歯科検診結果のお知らせに「要観察歯(CO)があります」と書かれていましたが、どのようなものですか。また、どうすればよいでしょうか。(39歳 主婦)

【回答】
要観察歯(CO:シーゼロではなくシーオーと読む)は平成7年度から学校歯科検診に導入された用語で、お母さん方が受けた学校検診にはありませんでしたので、あまりなじみのない言葉かもしれません。
要観察歯(CO)とは視診ではむし歯とは判定できないけれどもむし歯の初期症状を疑う所見を有するものをいいます。具体的には、むし歯の穴はあいていなくても噛み合わせの面の溝が茶色く見えているもの、歯の表面のエナメル質に白濁などがある場合、また隣の歯と接触している面で精密検査を要する歯のことです。要観察歯(CO)はそのまま放置するとむし歯になる危険が高い歯と考えられ、「むし歯になりかけの歯」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。
要観察歯はむし歯になってから対処するのではなく、学校や家庭で適切な指導や観察を行うことによりむし歯になりやすい口腔環境を改善して、むし歯への進行を防ぐことを目的に導入されたものです。家庭では口腔清掃(ブラッシング)の励行やバランスのよい食事などが大切です。また歯医者さんで専門的な指導を受けたり、フッ化物を応用したりすることももちろん有効です。要観察歯の通知は治療勧告ではなく、学校での保健指導、家庭での生活習慣の改善を中心に、地域の歯医者さんも協力して、また子供さん自身も努力してむし歯の発生を防いでゆくことを目的としていることをご理解下さい。
(平成17年8月26日 毎日新聞掲載)

 たくさんの種類の歯ブラシが市販されていて、買うのに悩むこともありますが、どんな歯ブラシを選べば良いのでしょうか。(41歳 主婦)

【回答】
現在、多くの種類の歯ブラシが市販されていますが、今回は一般的にどのようなものが良いと考えられているかについて述べてみましょう。歯ブラシは毛のある植毛部と柄の部分に分けられます。毛の部分の素材には、動物の毛のものもありますが、適当な硬さを保ち、清潔で安価なナイロンの毛が優れています。植毛部の大きさは重要で、毛の長さが12〜14ミリ、植毛部の長さが25ミリ前後、幅が10ミリ以下のものが良いでしょう。けれどもいちいち計測することも難しいので、全体として植毛部が比較的小ぶりのものを選ぶのが無難です。毛の硬さの表示はメーカーにより多少のばらつきがありますが、硬すぎるものはお薦めできません。歯肉の状態が悪く、痛みを感じる場合には「やわらかめ」、普段歯ブラシを当てても痛くなければ「ふつう」を選べばいいでしょう。また毛先が開いてくると刷掃効率が悪くなるので、交換するべきです。柄の部分は極端に長いとか短いとかでなければ、握りやすいものであれば問題はありません。通常は15センチぐらいの長さのものが使いやすいようです。
さて、歯ブラシの選び方も大切ですが、もっと重要なことは使い方、つまりは歯の磨き方ということになります。「磨いている」のと「磨けている」のとには大きな差があります。これは近年普及している電動歯ブラシについても同じです。
(平成18年5月26日 毎日新聞掲載)

 赤ちゃんの歯を丈夫にするには、妊娠中にどのようなものを食べれば良いのでしょうか。(妊娠3カ月の28歳 主婦)

【回答】
赤ちゃんに歯が生え始めるのは出生後、6〜9カ月のころ(個人差があります)ですが、妊娠6週目で早くも歯の基礎になる組織が胎児に認められるようになります。ですからお母さんのおなかの中にいる間に赤ちゃんの歯は大部分できあがっていることになり、妊娠中の栄養は歯の発育のためにも大切なのです。
歯のための栄養素としては一般的にカルシウムが重要視されていますが、これは歯の石灰化(歯の表面や内部に硬い組織が形成されること)にカルシウムやリンが豊富に必要だからです。カルシウムはひじき、チーズ、小魚、牛乳などに、リンは牛肉、豚肉、卵、米などに多く含まれています。歯の形成、発育のためにはこれら無機質の他に、たんぱく質やビタミン類も必要です。たんぱく質(魚、卵、牛乳、豆腐)は歯の基礎になる構造に必要ですし、ビタミンA(レバー、豚肉、ほうれん草)はエナメル質の土台となり、ビタミンC(かんきつ類、サツマイモ、ほうれん草)は象牙質の形成に大切で、ビタミンD(バター、卵黄、牛乳)には石灰化を調節する働きがあります。妊娠中に必要なカルシウムの摂取量はやはり普段より多く、1日あたり1グラムとされていますが、丈夫な歯のためにはカルシウムだけではなく、これらの栄養をバランスよく摂取することが大切なのです。
現在府内のすべての自治体で母親教室などで、妊婦を対象とした栄養指導や歯科の健診、指導も行われていますので、是非受けるようにして下さい。
(平成18年7月28日 毎日新聞掲載)

 現在妊娠4カ月ですが、最近歯ぐきからの出血が気になります。普通に歯科での治療を受けた方がよいのでしょうか。(28歳 女性)

【回答】
一般的に妊娠中でも歯科治療は行えますが、妊娠初期には応急的な処置が中心となります。それ以上の処置が必要な場合には安定期(4カ月〜8カ月ごろ)に産科と相談のうえ行うことになりますが、ご質問の症状は妊娠性歯肉炎の可能性が高いので、いつでも治療できると考えられます。
妊娠中に歯肉から出血しやすくなる妊娠性歯肉炎の頻度は高く、その発現は妊婦の35%以上にのぼると報告されています。妊娠性歯肉炎は卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲストロン)という女性ホルモンの上昇と関連していると考えられています。プロゲストロンの上昇は歯肉に炎症を起こりやすくし、同時に歯肉の血管に作用して出血しやすくします。また女性ホルモンは歯と歯肉との間の溝(歯肉溝と呼びます)の中にいるある種の細菌の栄養源となり、細菌の増殖をもたらすとされています。また妊娠の初期にはつわりで気分が悪くなり、歯磨きがおろそかになり、歯肉炎の原因であるデンタルプラーク(歯垢)の蓄積をまねきやすいことも関係しています。これらのことから妊娠中は歯肉に炎症が起こりやすく、結果として出血しやすくなるのです。
妊娠性歯肉炎の治療は通常は麻酔などを必要とせず、状態に応じた歯磨き法を用いること、歯の周りの歯石等を除去すること、専門家による歯面清掃などにより改善することができます。また内服薬も必要とせず、含そう薬(うがい薬)を使う程度ですので、妊娠中のどの時期でも安全に治療することができます。
(平成19年2月23日 毎日新聞掲載)

 夫が睡眠時無呼吸症で、家ではポンプで空気を鼻マスクに送るCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸法)を使っていますが、仕事がら出張も多く装置を持ち歩けないので大変心配です。何か良い方法はありませんか。(48歳 女性)

【回答】
新幹線のオーバーランで注目を集めた睡眠時無呼吸症候群ですが、肥満などが原因で気道が狭くなり、睡眠時に一時的に呼吸が止まる病気です。大きないびきをかいて熟睡できず、そのため寝起きが悪かったり、日中の眠気やけん怠感、注意力が散漫になるなどの症状が表れます。放置すると脳血管障害のリスクが高くなったり、交通事故を起こす恐れもあります。
お尋ねのケースでは、マウスピースが有効な場合があります。
医師による診断を受けて紹介があれば、平成16年4月から口の中に装着するマウスピースを歯科医院で作ることができるようになりました(保険適用)。これにはまず設備の整った病院で精密検査(ポリソムノグラフィ)を受ける必要があります。中〜重度の場合、CPAP(コンプレッサーに接続した鼻マスクをかけて眠ることで、強制的に呼吸を持続させる方法)が有効とされていますが、手軽に持ち運びができる器具ではありませんので、出張などが多い人にとっては悩みの種のようです。
マウスピースは、かさばらずに携帯に便利な長所がある半面、歯の無い人には作れませんし、重度の患者さんには効果がないとも言われています。また義歯と同様に、装着してから必ず調整が必要で、定期的に歯科医院でマウスピースの効果を判定してもらうことも大切です。
最近、睡眠時無呼吸症候群は生活習慣病の一つとする考え方がありますので、軽度なうちに適切な治療を受けて、重度化させないことが大切でしょう。
(平成16年4月23日 毎日新聞掲載)

 友人が糖尿病になってから急に歯ぐきが腫れるようになったと言っています。私も血糖値が少し高いのですが、糖尿病と歯の病気は関係があるのでしょうか。(57歳 男性)

【回答】
歯周病はもちろん歯の病気ですが、いろいろな全身の病気とも関係が深く、特に糖尿病との関連は重視されてきています。
糖尿病になると、細菌と戦う役割を担う白血球の機能が低下します。このため、口の中で歯周病を起こす細菌に対する抵抗力も低下して、歯肉に著しい炎症が起こり、歯を支えている歯槽骨が失われ、歯周病が短期間に悪化することがしばしばあります。糖尿病の方が、歯周病の発症や進行を抑制するには、まず内科で糖尿病をコントロールしてもらうことが重要ですが、歯周病の原因は歯垢とよばれる細菌の塊ですので、この歯垢を取り除き常に口の中をきれいにしておくことが、歯周病の進行を緩やかにするために特に大切なのです。
また逆に歯周病が糖尿病に影響するケースがあるとも言われています。詳しい因果関係については現在も研究中ですが、適切な歯周病の治療(歯垢を除去することと薬剤の併用)を行うと糖尿病の改善がもたらされたという報告があります。ですから糖尿病の方は内科での治療とともに、眼科や泌尿器科で合併症を調べてもらうのと同じように、歯科で歯周病のチェックをしてもらい、必要なら治療を受けられることをお勧めします。そうすれば両者が改善されることも期待できるのです。
(平成17年1月28日 毎日新聞掲載)

 総入れ歯をしていますが、毎年、寒くなってくると上の入れ歯が落ちてくるようになり困っています。また、下側も入れ歯の縁が歯ぐきにあたって痛くなります。どのようにすればよいでしょうか。(64歳 男性)

【回答】
質問の内容から、ドライマウス(口腔乾燥症)と呼ばれる症状の疑いがあると思われます。
上の総入れ歯(総義歯)は、ちょうどゴムの吸盤がぬれたガラス板に吸いつくように、唾液を介して上あごに吸着しています。このため、唾液の分泌量が減ると吸着が悪くなります。下の入れ歯も乾燥した粘膜にこすれて痛くなることがあります。ではなぜ、唾液の量が減るのでしょうか?このような症状はドライマウスと呼ばれており、梅雨から夏にかけてと、冬によく起こります。夏は汗に水分がとられるので唾液の分泌量が少なくなります。冬は空気が乾燥してくるので、皮膚から失われる水分が増えるにもかかわらず、夏ほどには水分を補給しませんのでやはり唾液分泌量が少なくなってきます。この他にも、薬の副作用による口の渇き(口渇感)や、糖尿病、自己免疫疾患のひとつであるシェーグレン症候群などの病気が原因となることもあります。また極度に緊張したときに口の中がカラカラに乾くことがあるように、精神状態が原因である場合も考えられます。ドライマウスでは、義歯に関係するトラブルの他、唾液がねばついてきますので、デンタルプラーク(歯垢)がたまりやすくなるため、歯周病が悪化したり、むし歯にかかりやすくなったりします。口臭もひどくなりますし、人によっては舌に痛みや違和感をおぼえたり、味覚異常を訴えることもあります。こういった症状に思いあたることがあれば、まず水分補給が十分かどうか確かめて下さい。最近は口の保湿剤もあります。
(平成16年1月23日 毎日新聞掲載)

 最近、口が渇いて困っています。食べ物が飲み込みにくかったり、しゃべりにくいと感じることがあります。どの診療科を受診すればいいのでしょうか?(70歳 女性)

【回答】
口の渇きを感じたら放置せずに、かかりつけの歯科医に相談してみてください。唾液分泌量が少なくなり口の渇きを自覚する疾患をドライマウス(口腔乾燥症)と言います。高齢者の27%が常時口腔乾燥感を自覚しています。軽度な場合を含めますと高齢者の56%が乾燥感を感じています。唾液は食べ物の味を感じるための補助、発音ならびに食物を砕いて飲み込む(摂食・嚥下)ための潤滑油、入れ歯の安定および口の中の自浄作用によるう蝕予防や口臭予防という重要な役割を担っています。したがって、唾液分泌量が減少することにより食物摂取、発音の不具合はもちろん、う蝕、口臭、入れ歯の不安定などお口の健康がいちじるしく損なわれます。
ドライマウスの原因は、老化による唾液腺の萎縮、薬の副作用、糖尿病・高血圧症およびシェーグレン症候群等の全身疾患およびストレスと考えられています。とくに高齢者では慢性疾患を合併していることが多く複数の薬剤を服用され、その副作用としてのドライマウスも多く認められます。診査は、主に口腔内保湿度、唾液の分泌量、涙液流失量、血液検査および血圧測定によって行われます。
治療法は人工唾液や含嗽剤の処方、薬の副作用が原因と考えられる場合には医師と相談の上、原因薬剤の減量、中止および変更を行います。また、唾液の分泌を賦活させるためのお口の体操(機能訓練法)を指導します。全身の運動と同じようにお口も、口を閉じて膨らましたり、すぼめたり、舌を大きく動かしたりして口腔の筋肉を賦活させることも有効です。元気で長生きするためにはお口の健康が大切です。
(平成18年3月31日 毎日新聞掲載)

 すり傷ができたら、なめるように言われますが、本当にだ液は傷が治るに有効なのでしょうか。(65歳 男性)

【回答】
だ液には(1)消化を助ける(2)菌の活動を抑える(3)粘膜を保護する(4)粘膜を修復するなどの作用があります。傷の治癒には(4)が関係し、成長因子と呼ばれる物質が作用していると言われています。
人の体の表面は皮膚や粘膜といった上皮という組織で覆われていて、この上皮により体の内部の組織が保護されています。すり傷ができるということは、上皮に傷がつくことです。86年、コーエンという学者が、だ液腺から上皮を成長させる因子を発見し、ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。この上皮成長因子はEGFと呼ばれるたんぱく質で、傷を修復する作用があります。だ液や血液、汗などに含まれ、特にだ液に多く含まれています。ですから、だ液は傷に有効であると言えます。傷をつくると、昔から「なめろ」と言われてきました。動物もけがをすると、仲間同士でなめ合ったりします。本能的に行ってきた行為の意味が、この研究により、解き明かされたわけです。
近年、話題になっている口腔乾燥症(ドライマウス)に関しても、だ液の作用が阻害され、さまざまな症状が起きていることが理解できます。ただし、これらの有効な作用にはだ液が健全であることが必要です。歯周病だけでなく、さまざまな感染症を伴っている場合は、傷口からだ液を経由して、感染を広げていくことになるので、注意する必要があります。
(平成18年10月27日 毎日新聞掲載)

 よくかむと「ぼけ」を防止できるというのは本当ですか?(65歳 男性)

【回答】
よくかむことにより、脳への血の流れがよくなり、酸素と栄養を送り、脳の働きを活発にすると言われています。これは子どもの脳の発達を助け、お年寄りには「ぼけ」防止に役立つとされています。
さらに、よくかむとだ液の分泌がふえます。だ液をつくるだ液腺には脳神経に重要なNGFといわれる神経成長因子が存在し、だ液にもNGFが含まれています。54年、レビーモンタルシニという学者は、だ液腺からNGFを発見し、86年、上皮成長因子(EGF)発見者であるコーエン(10月27日掲載)とともに研究を重ね、ノーベル賞を受賞しました。NGFは脳神経の再生、機能回復にも重要であり、アルツハイマー型認知症の予防・治療に有効であると考えられています。さらに、食用植物の明日葉、ホップ、食用菊の花、ガジュツ(紫ウコン)などにはだ液腺のNGF分泌量を増やすことが報告されています。高齢化社会を迎えた現代において、老化を防ぐ医学(アンチエイジング)の研究がさかんになっており、だ液に含まれるNGFの研究はますます重要になってくることが期待されます。
(平成18年12月1日 毎日新聞掲載)

 以前から耳のあたりで音がしていましたが、最近、朝起きたときに口が開けにくく、痛みがあり、首や肩がこります。友人に顎関節症ではないかといわれましたが、どのような病気で治療はどうするのでしょうか。(28歳 女性)

【回答】
顎関節は両耳孔の少し前にあり、そこに指を添えて口を開閉すると、顎関節のおおよその位置がわかります。顎関節症は、(1)口を開閉する時に顎関節部でカクンとかザリザリと言った雑音がする(2)口を開けたりかみしめたりすると痛む(3)口が開けにくい―等を主な症状とする病気で、10代から高齢者まで幅広い年齢層にみられます。男女比では女性の方が男性より約2倍、この病気にかかりやすいという報告があります。
このような症状に伴って、頭痛、耳鳴り、めまい、首や肩のこり、難聴、手足のしびれ、自律神経失調症状などさまざまな症状を訴える方もおられます。たとえば関節音がするからといってすべてが治療を要するわけではありませんが、一般的には痛みなどの症状に対する薬の処方、理学療法(温熱療法等)や顎関節への負担を軽減させるためのスプリント(自分で取り外しできるプラスチックのマウスピース)を使って治療します。また歯をかみしめたり、ほおづえなどの不良姿勢やストレスが顎関節症の発症や増悪要因に深くかかわっているといわれ、それらを改善することも大切です。いずれにしてもさまざまな症状や原因が考えられ、場合によっては外科的処置など専門医との連携も必要なことがあります。
(平成17年3月25日 毎日新聞掲載)

 歯科医院でレントゲンを撮ってもらったら、先生から骨の中で横にねている親知らずがあるといわれましたが、その歯は抜いたほうがよいのでしょうか。(35歳 男性)

【回答】
最近は小顔のアイドルがもてはやされておりますが、たしかに下顎が小さく、こぢんまりとした顔つきの若者達が増えてきたように見受けられます。軟らかい食事が増えたので、昔のように何回も噛む必要がなくなったから、顎の発育が悪くなったのだろうと一説にはいわれていますが、因果関係ははっきりしません。顎が小さくなった分だけ歯も小さくなってくれれば問題はないのですが、小さな顎に歯がひしめき合っているという状況が見られ、前歯が重なっていたり、犬歯が飛び出していたり(八重歯)、お口の清掃が難しい状態の人たちが増えているようです。そのうえに「親知らず」と呼ばれている第3大臼歯(智歯)がある人では、その歯が生えてくる場所がどこにもなく、しかたなしに顎の骨の中に横たわったままで埋もれる(水平埋伏智歯)こともあります。もちろん一生、なんの問題も起こさずに経過する人もありますが、多くの場合、手前の第2大臼歯を後ろから押すことになり、将棋倒しのように前の歯が順々に押されて、年齢と共に歯並びが乱れてくる原因となることもあります。また水平埋伏智歯が直接当たる第2大臼歯の根っこでは、ブラッシングがうまくできないために歯肉の炎症を起こしたり、ムシ歯が出来たり、歯槽骨(歯を支えている骨)が吸収したりすることがあります。このような症状が起こると、多くの場合、抜歯しなければなりませんが、水平埋伏智歯の抜歯は難しい手術になることが多く、かかりつけの歯科医とよく相談されることが大切でしょう。
(平成17年9月30日 毎日新聞掲載)

 歯肉から出血して止まりにくい場合があると聞きますが、どのような時に起こるのでしょうか。夜中に出血があったりするととても不安ですがどのようにすればいいのでしょうか。(55歳 男性)

【回答】
歯肉炎や歯周炎になると、歯磨きのときなどに出血する場合があります。通常は処置をしなくても止血しますが、いつまでも止血せず、口の中が血液で一杯になり、慌てて歯科医院を受診される患者さんがあります。
出血が止まりにくくなる原因は、大きく分けて(1)血友病などの血液疾患(2)肝臓疾患による血液の凝固因子(血が固まるために必要な因子)の減少(3)血栓塞栓症の治療や予防のために投与される抗血栓薬(血の固まりができるのを抑える薬)である抗凝固薬(ワーファリン等)や抗血小板薬(バイアスピリンやパナルジン等)の服用によるものが考えられます。これらの薬を服用すると結果的に止血しにくくなり、歯肉の小さな傷口などからでも、驚くほど多量の出血が起こることがあります。
このような血が固まりにくい薬を服用されている方や肝臓疾患の方は、日ごろから定期的にかかりつけ歯科医を受診し、歯周病の治療や予防処置を受け、口の中で出血が起こりやすい状態にならないように心がけることが重要です。
なお、どうしても夜間に出血が起こり不安でしたら、大阪府歯科医師会夜間緊急歯科診療(午後9時〜午前3時)でも対応しています。
(夜間専用電話 06・6774・2600)
(平成18年1月27日 毎日新聞掲載)

 歯を抜いてもらった後で、たばこを吸わないように注意されました。お酒がだめなのはわかるのですが、たばこはなぜいけないのでしょうか。(40歳 男性)

【回答】
抜歯などの外科処置の後で飲酒すると、血液の循環が良くなって術後出血の危険性が高まるので、「飲酒や運動は控えて下さい」という注意を与えますが、喫煙はその逆で、末梢の血液循環が悪くなり、傷口の治りを遅くしてしまうことがわかっています。
抜歯した後の穴(抜歯窩)に血液の固まり(血餅)がたまり、それがカサブタの役目を果たして傷が治っていくのですが、喫煙者では血餅の量が非喫煙者の半分以下であるとの報告があります。カサブタがなくては傷の治りが悪いのもうなずけるでしょう。
たばこに含まれるニコチンなどの作用で血管が収縮し、歯肉が低酸素状態になって、免疫力も低下すると言われており、抜歯後のドライソケット(抜歯窩が感染して激しい痛みを起こす)や骨髄炎という術後合併症を起こすリスクが増大します。
近年、喫煙は歯周病のリスクファクターとしても注目されています。歯肉の血流障害・免疫力の低下の結果、歯周病原菌が繁殖して歯周病の進行を助長することになります。また喫煙により傷の治りが悪くなることから、歯周治療の効果も期待がうすくなるため、歯周治療を始めるにあたって、喫煙者には禁煙や節煙を勧める歯科医が増えています。
いずれにしても外科処置を受ける際には、手術の前後2、3日は喫煙を控えることが必要です。
(平成18年6月23日 毎日新聞掲載)

 近ごろ、「再生医療」という言葉をよく聞きますが、抜けてしまった歯を生えさせることができるのでしょうか。(58歳 男性)

【回答】
医療の分野では、病気や事故等で失われた身体の一部を回復させるために、移植医療や医用材料を用いた人工的な方法が発展してきました。医用材料を用いたものとしては、人工関節や眼内レンズ等がよく知られていますが、歯科においても義歯やインプラントなどがあります。
昨今、心臓や肝臓といった直接、生命の維持にかかわる人工臓器の研究、開発も進められていますが現状では限界もあるようですし、移植についても臓器提供者(ドナー)の不足といった問題があります。
これらの問題を解決する方法として、自分の細胞を培養して失われた組織や臓器を再生させようという「再生医学」「再生医療」があり、皮膚の培養のように一部は実用化もされているものもあります。
歯科においても歯周病の治療分野で、失われた歯周組織(歯根膜=歯を骨に連結させ支えている組織、歯槽骨=歯を支持している顎の骨の一部)を自分の細胞の力で再生する研究が進められています。
残念ですが現時点では、ご質問にありますように歯を生えさせることは出来ませんが、近い将来、再生医療の進歩により失われた歯を再生することも夢ではない時代が到来するものと思っています。
(平成16年10月1日 毎日新聞掲載)

 子供の奥歯に永久歯が生えてきました。生えたての歯は、むし歯になりやすいというのは本当でしょうか。また、生え変わりの時期には、この歯は大切と聞きましたが、どのような点に気をつければよいでしょうか。(29歳 主婦)

【回答】
6歳前後に乳歯の奥に最初に生えてくる永久歯を6歳臼歯(第1大臼歯)と呼びます。やがて乳歯が抜け始め、この6歳臼歯が基準になって、順番に永久歯に代わっていきます。そのため6歳臼歯がむし歯になっていたりすると他の永久歯の歯並びや噛み合わせにまで影響します。それほど、6歳臼歯はとても大切な歯なのですが、最もむし歯になりやすい歯でもあります。その理由には次のようなものがあげられます。
(1)そもそも、歯はすごく硬い完成した状態で生えてくるのではありません。生えたばかりの歯は、歯の表面がやわらかく酸に侵されやすく、むし歯になりやすいのです。(2)さらに、むし歯になりやすい理由はこの歯の生え方にあります。6歳臼歯が顔をだしてからすっかり生え終わるまでには、約2年もかかります。(3)また歯の噛み合わせの面にある溝が深く、汚れがつきやすいかたちになっています。(4)しかも乳歯の奥に生えてくるので、お母さんも子供自身も生え始めに気づかないこともあり、歯ブラシも十分に届かないまま、何カ月かを過ごすことになります。
まだまだ子供自身ではしっかりと磨けないこの時期は、甘いもののコントロールとともに、お母さんが歯磨きを助けてあげてください。また、もっとも酸に弱い生え始めにフッ素を塗ることは、この時期のむし歯予防には大切です。
(平成17年10月28日 毎日新聞掲載)

 最近よく「インプラント」という言葉を耳にしますが、どのようなものなのでしょうか?(46歳 男性)

【回答】
むし歯や歯周病などで歯を失った場所に入れる人工の歯(義歯)は、自分の歯を土台に使う固定式の義歯(ブリッジ)と呼ばれるものや、ピンク色の床のついた取り外し式の義歯(入れ歯)などが一般的ですが、歯のない部分のあごの骨に人工の歯根を埋め込み、それを支えとした義歯(インプラント義歯)もそのひとつです。
歯を失った部分や本数は人によりさまざまですが、1歯欠損から全歯欠損まですべてインプラント治療が可能です。インプラントには、1歯だけを固定するさし歯タイプや複数歯を固定するブリッジタイプ、取り外し式の入れ歯を固定するタイプ、入れ歯に磁石などをつけて使う取り外し式のタイプなどがあります。インプラント治療はチタンと呼ばれる金属が骨の組織と結合する(オッセオインテグレーション)という概念が生まれてから急速に発展してきた治療方法で、今後さらに期待される治療のひとつです。
(平成17年12月23日 毎日新聞掲載)


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